「蜃気楼のように、空に幻が浮かび上がる。その幻の下に、本当にそれは存在するのか。それともその幻は、俺の創り出した幻影の上に成り立っているのか……脳なのか、心なのか……」

 晨の呟きに、真白がぷっと吹き出す。

「今度は何の話?」

 ソファーに座り、窓の外をぼんやり眺めていた晨は、上から覗き込んできた真白に焦点を合わせて、ふむと考え込んだ。

「蜃気楼は温度差や気候の影響を受けて、現実にあるものが別のところに浮かんだように現れること。それは知ってる?」

「まあ、なんとなく」

 真白は軽く頷きながら、晨の隣に腰を下ろす。

 晨が、前触れもなく変なことを言い出すのはよくあることだ。

 真白はそれ自体には慣れたが、言っていることを一度で理解するのは難しい。

「でも、蜃気楼は幻なんだ。つまり錯覚。そこには存在しないものが存在しているように見える。でも、見えているものが、本当に存在しているかなんて、わからない。

 だったら、その幻は自分が創り出しているのかもしれない。でも、それがどっちかわからないということは、自覚のないまま創り出しているということでしょう?

 そうだとしたら、それは潜在意識の表れということになる」

「待って待って。晨、難しいって。どこから来た発想で、どこに向かおうとしてるの?」

 晨は、真剣な表情で真白をまっすぐ見つめている。