「あったかい気持ちになったから」

「え?」

 それのどこに、殺害スイッチがあるというのか。

「幸せな気分になったから」

「それのどこが――」

「私には一番不要だから」

 そう言うと、真白はまっすぐ晨を見つめた。

 揺るぎない視線に、思わずたじろぐ。

「幸せなんて、いらない。感じたくない。感じちゃいけない」

 晨を見て言っているようで、どこか独り言のようにも感じる。

「……そう」

 真白が予想していた反応ではなかったのだろう。

 目を丸くしたかと思ったら、真白は口を開いたが、何も言えずに閉じた。

 しかし、晨には違和感のない返事だった。

 真白がどうしてそう思うのかは知らない。

 だけど、真白の言うことは理解できた。

 それどころか、同じ気持ちを抱いていたことに、親近感を持ったと言ってもいい。

 ただ、これだけは変わらない。

「だけど、俺は真白を殺さない」

 真白の表情が歪んだのを見て、晨は立ち上がり、キッチンに向かった。