晨が奇跡的にあった消毒液と傷テープを持って戻っても、真白の体勢は変わっていなかった。

「消毒してもいい?」

 不安と恐怖を隠しきれていない晨の声に、真白の身体がビクッと跳ねる。

「真白」

 晨がしばらく待っていると、真白はのそのそと寝返りをうって、ようやく顔を見せた。

 先程よりは顔色が良くなっているし、表情も虚ろではない。

 それよりも、バツの悪そうな表情と言っていいか、悪さが見つかった犬みたいだと言っていいか、悩む。

「……ごめんなさい」

 真白の小さな声に、晨は内心で胸を撫で下ろした。

 どうやら、本当に正気に戻っているようだ。

「びっくりした」

「私も、こんなことした自分にびっくりしてる」

 その言葉が予想外で、晨はすぐに反応できなかった。

『殺してほしいんじゃないの?』

 そんな言葉が浮かび、背筋にひんやりしたものが触れた感覚を覚える。

 いつの間にか、晨の中で真白の要求が当たり前になっていたのかもしれない。

 だから、そんな言葉が浮かんでしまったのだろうか。

 それが、晨には一番怖いと思えた。

 当然、晨に殺す気はない。

 だけど、真白の要求を否定していない。

 どうしてだろう。