小さな身体が震えている。

 晨は奥歯を噛み締め、背中をトントンと叩いた。

 それだけで落ち着くとは思えなかったが、人付き合いの苦手な晨には、これくらいしかしてやれることが浮かばなかった。

 晨は立ち上がると、転がっている包丁を拾った。

 ほとんど料理をしない晨は包丁を使うことがない。

 では、なぜ置いてあったのかというと、一人暮らしをする時に、母親が勝手にキッチン道具を揃えたからだ。

 晨はそれらを見て、鼻で嗤ってしまった覚えがある。

 絶対に晨が使うことはないとわかっているのに、わざわざ揃えたことが滑稽に思えたのだ。

 晨は無意識に左腕に視線を落とした。

「刃物なんて、あってもいいことない」

 捨ててしまおうか。

 そう思ったが、真白が楽しそうに料理をしている姿が浮かんでしまい、眉間に(しわ)を寄せた。

 先程の危うい真白と生き生きとした真白が交互に浮かぶ。

 その隙間を縫うように、鮮やかな赤が大きく広がっていく。

 晨は自身の不安定さを正すように、首を振り、深呼吸をした。