――沈黙を破ったのは、晨だった。

「消毒しよう」

 晨は真白の手をそっと握り、ソファーに促す。抵抗されることも覚悟していたが、真白は大人しく従い、ぽすんと軽い音をさせて、力なく横たわった。

 もともと色白の顔は生気を奪われたように青白くなっている。

 晨は頬にかかった真白の髪を、優しく耳にかけ、頭を撫でた。

 髪は少し傷んでいて、よく見ると、切り方も不揃いだ。

 こちらを見ようとしない真白から目を離すと、また包丁を拾いに行きそうで怖い。

 その証拠に、手から始まった晨の震えは、今では全身に広がっている。

 晨は真白の前に胡坐(あぐら)をかき、真白の顔を覗き込んだ。

「真白」

 つい先ほどは喜んだ呼び方にも、真白からの反応はない。

「真白、聞いて。俺は消毒液を取ってくる。少し離れるけど、ここを動かないって約束できる?」

 晨の言葉に反応するように、ようやく真白の視線が晨に向いた。

「……うん」

「いい子だね」

 真白は泣きそうな表情を浮かべたかと思ったら、身体を(ひるがえ)し、晨に背を見せた。