「お昼、何が食べたい?」

 晨は考えようとして、すぐに諦めた。

 食に興味がなく、空腹が満たされればいいと思っているため、食べたい物を聞かれるのが昔から苦手だ。

「何でもいいよ」

「それが、一番困る!」

 この会話が、なんだか照れくさく感じた。

 晨は買ってきたものをリビングの端に置き、頭を掻いた。

「……真白が食べたい物がいい」

 我ながらずるいと思いながら、晨は真白を見ずに呟いた。

 だから、真白がどんな表情をしたかはわからない。

「もう! バカ!」

「なんで――」

 振り返った晨が目にしたのは、真白が真っ赤な顔をして、パーカーをぎゅっと握り締めている姿だった。

 思わず、晨の頬も熱くなる。

「バカはどっち⁉」

 晨が叫ぶと、真白は唸り声を上げながら、キッチンへ走っていく。

 何をするのかと思って目で追っていると、包丁を出す真白の様子が確認できた。

 怒りながらも、料理を始めようとする真白を見て、晨はホッと息を吐く。

 晨は動揺した自分を意識しないように、買ったものを黙々と整理し始めた。

 だから、気付かなかった。