駅が見えてきたところで、ようやく歩調を緩めて、空を見上げた。

 今夜の予想気温が四月とは思えないほど低かったことを思い出し、背負っていたリュックサックの肩ベルトをぎゅっと握った。

 寒いのは苦手だ。

 日が落ちてしまう前に帰ってしまおう。そう思った時だった。

「ねぇ、お兄さん」

 凛とした高めの声が、晨の足を止めた。

 いや、止まらされた。

 羽織っていたカーディガンの裾を引っ張られたせいだ。

 声を掛けられただけなら無視するが、流石に服を掴まれていては無視もできない。

 不機嫌を滲ませた表情で、晨は声の主へ顔を向けた。