「布団を買うくらいで、何がそんなに嬉しいんだか……」

 確かに晨にとっても、今の環境の悪さと効率の悪さは居心地が悪い。

 絵を描いている晨の背後には、ベッドで寝ている真白がいる。

 起こしてはかわいそうだ。

 静かにしないと。

 明るくて起きないだろうか。

 ちょっとした心配が過るたびに、イラストを描く手が止まる。

 没頭していたはずなのに、その世界から現実へと引き戻されてしまう。

 そんな雑念が、これまで淡々とした日常を繰り返していた晨の生活を侵食し始めている。

 その上、晨はソファーで寝ているのだから、疲れも取れない。

 だったら、いっそ布団を買って、生活環境を整えた方がいい。

 顔を洗い、身支度を終えた晨が洗面所を出ると、ふわりといい匂いが鼻先をくすぐった。

「ご飯、できてるよ」

「あ、うん」

 真白はここに住むようになってから、頼んだわけでもないのに、当たり前のように家事全般をこなしている。

 晨の不規則な生活を正すように、食事は一日三回。

 晨に合わせて、多少時間が変わることはあっても、回数が減らされることはない。

 それから、必ず朝陽を部屋に入れる。

 晨が遅くまで絵を描いていた翌日も、必ず朝、カーテンを開ける。

 それを、晨は煩わしいと思う反面、どこか、気持ちにゆとりができてきたことを感じ、複雑な気分になる。

 寝不足で、気だるいはずの朝が、少しだけ気持ちよく感じるのだ。