「晨! 起きて!」

 真白の元気な声とともに、朝陽を遮っていたグレイの遮光カーテンが開かれた。

 窓から射し込むのは、陽気な春を思わせる暖かな陽射し。

 真っ暗だったリビングに小花が舞うように、真白は楽しそうに晨が包まっている布団をリズミカルに叩く。

「起・き・て! あーきー!」

 ぽんぽんぽん。タタタンタン。

 真白は晨が起きるまで、ずっとこれを繰り返す。それも毎朝だ。

 今は真白が寝室のベッドを使い、晨がリビングのソファーで寝ている。

 しかし、寝室は仕事場でもあるため、夜の間ずっと絵を描いていることも多い現状は、真白の睡眠には適していない。

 この問題を解決すべく、二人は今日、布団を買いに行くことにした。

「晨ってば!」

「もう、わかったって!」

 晨は布団を跳ね上げ、顔を出した。

 晨のしかめっ面を見て、真白は満足そうに笑う。

「こっちは遅くまで仕事していたんだから、もう少し寝かせてくれても――」

「お買い物、早く行きたいんだもん!」

「別に慌てなくても、店は逃げな、あっ、ちょっと……危ないなぁ」

 真白は晨の言葉を無視して、その両手を掴むと、強く引っ張った。

 そのせいで、体重の軽い晨は簡単にバランスを崩し、ソファーから転がり落ちてしまった。

「逃げるんだよ、本当に欲しいものは! ほらほら、顔を洗う!」

 晨は、鼻歌まじりの真白がキッチンへ向かったのを目で追いながら、欠伸《あくび》をかみ殺した。