「俺は真面目に聞いてるんだけど」

「内緒! この話は終わり! それ以上聞くなら、私は出て行く」

 本当に面倒だ。面倒でしかない。

 それなのに、晨には深く追求する勇気がなかった。

 真白の荷物はほとんどなかった。

 着替えが数着と古くなった財布と通帳。

 駅のコインロッカーに入れてあった鞄には最低限、いや、最低限にも及ばないようなものしか入っていなかった。

 そこから、真白の状況は思ったよりも深刻な印象を受けた。

「わかったよ……とにかく、住むところと仕事が見つかるまでだから。その二つを真面目に探すこと。約束できる?」

 晨の言葉を聞いた真白から、スッと表情が抜けた。

 無言で、何を考えているのかわからない様子に、晨は狼狽(うろた)えた。

 失言だったのか。それとも、嫌な思いをさせたのか。

 よく考えたら、女の子が男の部屋に住むのは抵抗があるかもしれない。

 とにかく、何か言わなくては。晨の中で、様々な考えが交錯する。

 長く人を遠ざけてきたせいで、関わり方を忘れてしまった。

「あの、ごめ――」

「どうせ、捨てるくせに」

「え?」

 小声だったせいではっきりと聞き取れなかった言葉は、聞き逃してはいけない気がした。

 漠然とした不安を抱いた晨だったが、すぐに真白の声が晨の不明瞭な思考をかき消してしまった。

「よろしくね、晨!」

 真白の表情が明るくなり、声も元気なものへ戻ったことで、晨は聞きたいことを呑みこまされてしまった。

 晨は自分の気持ちを切り替えるように、ふわふわした髪を耳にかけ、大きく息を吐いた。