「……名前」

「ん?」

「君の名前は何? 俺は東雲晨」

「ああ。私は、麻生(あそう)真白(ましろ)。十八歳!」

「……着いてきて。仕方がないから、俺の家に行こう」

 真白は大きな目をぱちくりさせると、満面の笑みを浮かべた。

 その瞬間、雑踏の音が止み、真白の世界に引きずり込まれた気がした。

「わぁい! 晨が私を殺してくれるんだ!」

 真白の大きな声に、晨は慌てて口を塞ぐ。

 周囲を見回したが、幸い真白の言葉を聞いた人はいないようだ。

「人聞きが悪いことを言わないでくれる⁉ 通報でもされたら、どうするんだよ!」

 晨は怒っているのに、真白は楽しそうに笑い、口を塞いでいる手に触れた。

 自分がしていることに気付き、晨は急いで手を離す。

「晨の手、綺麗だね!」

「俺、年上! 呼び捨てにしないでよ!」

「晨は晨だもん。もう決まったから、これは変えられません!」

 クスクスと笑う真白の様子に、晨は頭を抱えた。

 年下の真白に敵わない気がする。

 そんなことを予感しながらも、晨はご機嫌の真白を連れ、帰路に就いた。