男性の姿が見えないところまで来て、晨はようやく少女の手を離し、向き合った。

「本当にバカだった」

 呆れと苛立ちの混じった晨の声に、少女は肩を竦め、舌を出した。

「バカだもん。いいじゃん」

「良くない。世の中には冗談を真に受ける人もいるんだ。もし、本当に危ないところに連れていかれて、本当に何かされたらどうするの?」

 言葉にすると、今度は怒りも芽生えてきた。

 世間知らずなのか、危機管理能力の著しい欠如なのかわからないが、自分がどれだけ危ないことをしているのか、わからせたい。

 怒りを堪えるのは、随分久しぶりの感覚だった。

「冗談じゃないし」

 少女は不貞腐れたように呟くと、そっぽを向く。

 そんな彼女の頭を思わず叩いた。

 小心者の晨にできたのはこつんという、可愛らしいものだったが。

「冗談じゃないなら、尚更危ない。もう、あんなことをするのは止めて、学生は大人しく春休みを満喫しなさい」

「高校を卒業したばっかりだし、進学もしない私に春休みはないもん!」

 開き直ったように笑った少女の頭をもう一度小突く。