私は次の言葉を出せないでいた。
辺りが薄暗くなってきて、平田くんの表情がちゃんと見えない。
けれど、嫌悪感を全身から絞り出すような、悲痛な声が耳にこびりついている。
平田くんはきっとお母さんのことが不安で。学校にも信頼できる友達はまだいなくて。それで私に話しているのだろう。
私はこのまま話を聞き続けていいのだろうか。
私が聞くことで平田くんが楽になるなら聞きたい。でも、私にできるのはきっとそれだけなのだ。
「お姉さん?」
「な、なに?」
「親をあいつなんて言って、ひいてる?」
「ううん。そんなことはないよ」
「お姉さんは自分の親、好き?」
「そうね。好きだと思う」
「俺は、あいつなんか大嫌いだ」
「……そうなんだね」
私は頷いて、平田くんの次の言葉を待つ。
桜庭先生の話から、平田くんが父親を嫌いだろうことはわかっていたけれど、親を嫌いになるって、きっと簡単なことじゃないし、平田くんは苦しんでいると感じた。
鴉が鳴く声が頭上から聞こえてきた。
「お姉さん、時間、大丈夫?」
「私は大丈夫。平田くんは大丈夫なの?」
「俺も大丈夫。もう少し話を聞いてもらっていい?」
「いいよ」
「あいつ……あいつは、母さんに暴力を振るっていたんだ。気に入らないことがあれば、手をあげていた」
「……それは、お母さん、痛かったし、辛かったでしょうね。平田くんは叩かれなかったの?」
「俺は母さんに守られていたんだ。でも、俺も大きくなって身長が伸びて、母さんに守られるだけじゃダメだと思うようになった。俺が母さんを守らないとって。だから、母さんとあいつの間に入るようになった」
「それじゃあ……、平田くんにも……」
「いや、あいつ、俺には暴力を振るわなかったんだ」
「そうなの? それはよかった」
「でも、その頃からあいつは家に帰らない日が増えて……」
「そう。でも、帰らないほうがある意味平和だったんじゃない?」
「それはそうなんだけど。あいつが帰らなかったのは、不倫していた女の所にいたせいだったんだ」
次々に話される平田くんの父親のことに、私は驚かされるばかりだった。
辺りが薄暗くなってきて、平田くんの表情がちゃんと見えない。
けれど、嫌悪感を全身から絞り出すような、悲痛な声が耳にこびりついている。
平田くんはきっとお母さんのことが不安で。学校にも信頼できる友達はまだいなくて。それで私に話しているのだろう。
私はこのまま話を聞き続けていいのだろうか。
私が聞くことで平田くんが楽になるなら聞きたい。でも、私にできるのはきっとそれだけなのだ。
「お姉さん?」
「な、なに?」
「親をあいつなんて言って、ひいてる?」
「ううん。そんなことはないよ」
「お姉さんは自分の親、好き?」
「そうね。好きだと思う」
「俺は、あいつなんか大嫌いだ」
「……そうなんだね」
私は頷いて、平田くんの次の言葉を待つ。
桜庭先生の話から、平田くんが父親を嫌いだろうことはわかっていたけれど、親を嫌いになるって、きっと簡単なことじゃないし、平田くんは苦しんでいると感じた。
鴉が鳴く声が頭上から聞こえてきた。
「お姉さん、時間、大丈夫?」
「私は大丈夫。平田くんは大丈夫なの?」
「俺も大丈夫。もう少し話を聞いてもらっていい?」
「いいよ」
「あいつ……あいつは、母さんに暴力を振るっていたんだ。気に入らないことがあれば、手をあげていた」
「……それは、お母さん、痛かったし、辛かったでしょうね。平田くんは叩かれなかったの?」
「俺は母さんに守られていたんだ。でも、俺も大きくなって身長が伸びて、母さんに守られるだけじゃダメだと思うようになった。俺が母さんを守らないとって。だから、母さんとあいつの間に入るようになった」
「それじゃあ……、平田くんにも……」
「いや、あいつ、俺には暴力を振るわなかったんだ」
「そうなの? それはよかった」
「でも、その頃からあいつは家に帰らない日が増えて……」
「そう。でも、帰らないほうがある意味平和だったんじゃない?」
「それはそうなんだけど。あいつが帰らなかったのは、不倫していた女の所にいたせいだったんだ」
次々に話される平田くんの父親のことに、私は驚かされるばかりだった。