***
「鳴海先生、授業わかりやすかったよ〜」
「ほんと? ありがとう! 日曜日に頑張って準備した甲斐があったなあ」
「先生も予習みたいなのするってこと?」
「そうだよ〜」
「先生も大変なんだね〜」
授業後、数人の女子生徒が私のもとにやってきた。
ショートカットの子が日野さん。ボブに眼鏡の子が谷口さん。長い髪を一つ結びにしてる子が西村さん。素直で、私に興味があって、友好的な生徒たち。実習始め、緊張でガチガチになっていた私に話しかけてきてくれたのがこの三人だった。
そうだ、平田くんのこと、聞けないかな。
「ねぇ、ちょっと聞いてもいい? 平田くんってどんな子だった? 何か知らない?」
私ができるだけさらっと尋ねると、三人は目線を上げて、考える顔をした。
「平田くん……背が高くてかっこいいよね」
「転入試験でもウチに入れたから、かなり頭いいみたい」
「でも、なんで転校してきたかは謎なんだよね。色々噂はあるみたいだけど」
「噂?」
私は聞き返した。
「うん……。僻みもあると思うんだけど、平田くん、かっこいいから、前の学校で女子とトラブルがあったとか……」
「不登校になってから、ますます変な噂を男子たちが言いふらしてるの」
「前の学校で、先生に暴力ふるったとか……」
昨日会った平田くんを思い出して、私はまさかと思った。そんなことするような子じゃないのは、誰が見てもわかるのに。やっぱり、高校の途中編入というだけで、周りは色眼鏡で見るのだろうか。
「もちろん、私たちは信じてないよ」
「でも、噂があるのは事実だから、平田くん、学校に来づらいだろうなとは思う」
「そうなのね……」
「鳴海先生、平田くんのこと気になるの?」
「そうだね。いつも教室に空いた席が教壇から見えるのは、ちょっと寂しいかな」
平田くんに会う前から感じていたことだ。今はそれだけじゃない。平田くん本人に会ったからこそ考えてしまう。
「そっか。そうだよね」
「鳴海先生優しいから」
優しい……。そうなのかな。それともまた違う気がするんだけどな。
「ありがとう。できれば、他人事と思わないで、平田くんのこと思ってくれると嬉しいかな」
いかにも先生らしい言葉を使ってしまい、心の中で私はため息をついた。
難しいな。私はまだ教師でもないけれど、高校生とも違うんだ。
大学生って不思議な位置にいると思う。授業も自分で好き選べて、バイトもできて、責任とることも増えて。半分子供で半分大人。高卒で社会人になった人は否応でも大人扱いされちゃうのに。大学生は一応学生で、中途半端なんだと思い知らされる。
でも、だから学生の気持ちもまだ共感できると思いたい。今の私だからできることがあると、思いたい。
「平田のことを聞いてたね」
職員室に戻るとき、桜庭先生に言われて、私はどきりとした。
「生徒に関心を持つことはいいことだと思うが、瀬戸さんにはまだ難しい問題かもしれない」
桜庭先生の声には責める響きは全くなく、優しさがあった。
「はい……。私はあくまで実習生で、教師ではありませんしね。わかってはいるんです」
「すまないね。原因を作った私から言われたくはないだろうが……」
苦しげに目を伏せた桜庭先生を私は見上げた。
「あの、よろしければ、どんな会話そのときされたのか教えてもらえないでしょうか?」
「鳴海先生、授業わかりやすかったよ〜」
「ほんと? ありがとう! 日曜日に頑張って準備した甲斐があったなあ」
「先生も予習みたいなのするってこと?」
「そうだよ〜」
「先生も大変なんだね〜」
授業後、数人の女子生徒が私のもとにやってきた。
ショートカットの子が日野さん。ボブに眼鏡の子が谷口さん。長い髪を一つ結びにしてる子が西村さん。素直で、私に興味があって、友好的な生徒たち。実習始め、緊張でガチガチになっていた私に話しかけてきてくれたのがこの三人だった。
そうだ、平田くんのこと、聞けないかな。
「ねぇ、ちょっと聞いてもいい? 平田くんってどんな子だった? 何か知らない?」
私ができるだけさらっと尋ねると、三人は目線を上げて、考える顔をした。
「平田くん……背が高くてかっこいいよね」
「転入試験でもウチに入れたから、かなり頭いいみたい」
「でも、なんで転校してきたかは謎なんだよね。色々噂はあるみたいだけど」
「噂?」
私は聞き返した。
「うん……。僻みもあると思うんだけど、平田くん、かっこいいから、前の学校で女子とトラブルがあったとか……」
「不登校になってから、ますます変な噂を男子たちが言いふらしてるの」
「前の学校で、先生に暴力ふるったとか……」
昨日会った平田くんを思い出して、私はまさかと思った。そんなことするような子じゃないのは、誰が見てもわかるのに。やっぱり、高校の途中編入というだけで、周りは色眼鏡で見るのだろうか。
「もちろん、私たちは信じてないよ」
「でも、噂があるのは事実だから、平田くん、学校に来づらいだろうなとは思う」
「そうなのね……」
「鳴海先生、平田くんのこと気になるの?」
「そうだね。いつも教室に空いた席が教壇から見えるのは、ちょっと寂しいかな」
平田くんに会う前から感じていたことだ。今はそれだけじゃない。平田くん本人に会ったからこそ考えてしまう。
「そっか。そうだよね」
「鳴海先生優しいから」
優しい……。そうなのかな。それともまた違う気がするんだけどな。
「ありがとう。できれば、他人事と思わないで、平田くんのこと思ってくれると嬉しいかな」
いかにも先生らしい言葉を使ってしまい、心の中で私はため息をついた。
難しいな。私はまだ教師でもないけれど、高校生とも違うんだ。
大学生って不思議な位置にいると思う。授業も自分で好き選べて、バイトもできて、責任とることも増えて。半分子供で半分大人。高卒で社会人になった人は否応でも大人扱いされちゃうのに。大学生は一応学生で、中途半端なんだと思い知らされる。
でも、だから学生の気持ちもまだ共感できると思いたい。今の私だからできることがあると、思いたい。
「平田のことを聞いてたね」
職員室に戻るとき、桜庭先生に言われて、私はどきりとした。
「生徒に関心を持つことはいいことだと思うが、瀬戸さんにはまだ難しい問題かもしれない」
桜庭先生の声には責める響きは全くなく、優しさがあった。
「はい……。私はあくまで実習生で、教師ではありませんしね。わかってはいるんです」
「すまないね。原因を作った私から言われたくはないだろうが……」
苦しげに目を伏せた桜庭先生を私は見上げた。
「あの、よろしければ、どんな会話そのときされたのか教えてもらえないでしょうか?」