「「せーの!」」

 カルティカちゃんとかけ声を合わせて両サイドの殻をそれぞれの方向にパカッと蟹のお腹を開くように力を加えれば、背中側の殻に身が残った状態で腹側が剥がれたわ。

 腹側には炭化した蟹味噌にあたる何がしかと少し剥がれた身がこびりついているけれど、こちらは廃棄ね。
魔獣のそういうのは人にとって害になるものだから、蟹味噌のように味わうのはおすすめできないの。

「うわぁ……」

 まあまあ、眼鏡の奥の瞳にキラキラのエフェクトがかかっているようよ。

 そうね、カルティカちゃんが感嘆の声を上げるくらい、背中側の殻には見事な蟹肉がぎっしりだものね。

 正規の蟹の胴体部分とは違って、薄くて白っぽい5つに分かれた殻のようなものは存在しないわ。
白い蟹脚の身が詰まっているような感じかしらね。

「さあさあ、カルティカちゃん、やっちゃって!」
「はい、喜んで!」

 カルティカちゃんは少し離れた所に歩いて行くと、屈んでポンと両手を地面についたわ。

「よいしょお!」

 まあまあ、何という事でしょう!

 可愛らしい声と共にあっという間に私の身長くらいありそうな土製の棚が登場よ!

 ふふふ、こういう土の多い森では土属性の魔法が得意なカルティカちゃんの魔法が冴えるわ。

 土がパラパラ落ちるわけでもなく、しっかり固まった見事な棚が完成ね!

 こういう土地だから、念の為に教会が売ってる風な浄化用の魔石を棚の上に置いておくわ。

 もちろんあんな屑魔石にちょろっと浄化魔法をこめただけのぼったくり魔石なんて買わないわ。
自作だし、教会の神官が土地を浄化するのと同じくらいの浄化魔法をこめているのよ。

「手分けして草を敷きましょう」
「はい!」

 棚にバナナの木の葉っぱを模したような草を敷いていく。
もちろん全ての葉っぱは生活魔法とされる洗浄魔法で綺麗にしてあるのよ。

「それじゃあ、まずは8個分を並べてあの草を上にかけてから少し乾燥させましょう」
「はい!」

 あちらではローレン君と家格君が脚や脇を切り落とし始めているわ。

 更に向こうでは草に転がる胴体が積み上がりつつあるから、そろそろラルフ君達が上がって来るんじゃないかしら。

 そこからは黙々と作業開始よ。

 私とカルティカちゃんが捌いては軽くなった身を8個土棚に上げ、更に上から草を乗せる頃には、全員が1つ以上、丸々捌いている状態になったわ。

 手際の良い私達2年生はその合間に廃棄する殻諸々、草も含めて穴に放り込み、全てを捌き終える頃には周りも綺麗にし終わったの。

 棚には追加で更に8つの捌いた身を置いてあるわ。
こちらは上には草を被せないのよ。

 棚には虫よけネットを被せたわ。

 残りの4つは捌いてすぐにローレン君のマジックバックに仮収納、と思ったのだけれど、どうせすぐに食べちゃうからと一旦あのままにしているの。

 これぞキャンプの醍醐味、華麗なる連携プレーね!
1世紀ぶりの青春(あおはる)よ!

「公女、何故あの棚の物は草を被せている物といない物があるんだ?」

 まあまあ!
またまた背後からの素敵ボイスね!
うちのお孫ちゃんは最高か!!

 穴の様子をのぞき見ていた私は振り返って、ああ、また妄想が暴走(スタンピード)しそうよ!

 何を期待しているのかわからないけれど、好奇心に目を輝かせているお孫ちゃんは可愛いが過ぎるわ!!

 ああ、本気で今すぐログハウスに転移したい!
せめてキャスちゃん、ノート持って来てちょうだい!!

 はっ、ダメダメ。
こんな事で聖獣キャスケット、愛称キャスちゃんを使ったら怒られちゃうわ。

 キャスちゃんてば、見た目は可愛らしい白い手乗り子狐だけれど、中身はお年寄りだから説教も混じって1度怒ると長いのよ。

「そうね、まずあの草には抗菌効果があるの。
だから全ての物の下に敷いてあるでしょう。
上に被せているのは草の独特で爽やかな香りを移す為よ。
焼くとあの香りが引き立ってまた別の美味しさを感じるようになるわ。
それからあの棚の物は一晩放置するつもりよ。
お魚の一夜干しみたいに味が凝縮するし、香りも馴染むの。
草を被せていない方は燻製にするのに水分を飛ばす必要があるからよ。
ほら、水分が多いと燻製にした時に酸っぱくなるでしょう」

 凛々しくも可愛いお孫ちゃんには祖母(おばあ)ちゃん、精一杯応えちゃうわ。