「はあ!」

 魔獣避け(改)の設置完了を待ったかのように気合い一発、ローレン君が穴に魔法で作った火球をこれでもかと投げ込む。

 この魔法具の良い所は魔獣を閉じ込めつつ、外からの攻撃もできる所ね。

「蹴るぞ!」
「任せろ!」

 上空では頭部の切断が完了して動きがピタリと止まったムカデの頭をラルフ君達が蹴り飛ばした。

 あらあら、家格君の足元に落ちたわ。

「うわ!」

 身体強化魔法を使っているから、勢いよく跳ねたわね。

 まあまあ……。

 討伐中にぼうっと見てるだなんて、危ないわよ?
ピシャッとムカデの体液がお高そうなブーツにかかってしまったわ。

 念の為1つ下の節から切断するよう指示しておいて良かったわね。
1つ上の節から切断してると先に毒が飛び散って物によっては硫酸がかかったみたいに溶けちゃうから。

 まだ頭はウゴウゴ動いててちょっと気持ち悪いけど、美味しくいただく為の試練ね!

「ラルフ君、風魔法でそのまま穴に体を沈められるかしら?」
「任せろ」
「私も手伝おう」

 あら、お孫ちゃんも風属性の魔法が使えたのね。
素敵よ。

 使える魔法の属性は人によって偏りが出るの。

 沢山の脚の1つに足を引っかけて待機していた2人は、今度は直立不動に固まるムカデの背を蹴って飛び上がり、左右に揺れ始めた胴体に上から魔法で風圧をかけてまだ燃えている穴に沈めてくれたわ。

 ローレン君、火加減バッチリね。

 2人はちゃんと穴の外に着地したわ。
怪我をしなくて何よりよ。

 私は荷物の中から使い捨ての燃焼用の魔石を取り出してポイポイッとまだまだ燃えている穴に放り込む。

 途端にゴウッと火の勢いがましたわ。
これ、酸素無くても燃焼してくれるから蒸し焼きにちょうどいいの。

「カルティカちゃん、土魔法で穴の上に蓋をする感じで埋めてくれるかしら?」
「今日は蒸し焼きですね。
喜んで。
どれくらいで出来上がります?」

 ふふふ、眼鏡の奥の目が輝いていて可愛らしくってよ。

「そうね、小一時間放置していれば出来上がるはずよ」
「小一時間……待ち遠しい……(ジュル)」
「早速公女の手料理が食べられるんですね!」

 唾を飲み込むカルティカちゃんと素直に喜ぶローレン君。
素直な若者は可愛らしくて好きよ。

「公女、魔獣避け(改)は回収した。
すぐにメンテナンスだ」
「まあまあ、助かるわ。
これ、少しブーストをかけた正規の魔獣避けよ。
ムカデは番でいる場合が多いから、先に設置してもらえるかしら?
範囲はいつも通りで」
「「「……了解」」」

 3人に2つずつ魔獣避けを手渡す。
こっちのは同じ長さの、ただの杭みたいな形よ。
中に魔石が入っているタイプで、魔石の魔力は既に満たしてあるから突き刺すだけ。

 返事にタメがあったのは、いつもなら()()で良いからかしらね。

 3人、いえ、お孫ちゃんも合流して4人は少し広範囲で地面や周囲を念入りに索敵魔法で調べながら魔獣避けを突き刺し始めたわ。

「ふん、少しは役に立つじゃないか。
しかし俺の靴を汚したのはいただけない」
「あらあら?
手伝ってもらえるのかしら?」

 随分と上からの物言いなのは家格君よ。
洗浄魔法でも使ったのでしょうね。
靴は自分で綺麗にしたみたいだし、討伐訓練で汚れる事に何か問題があるの?

 もちろん私はさっきリーダーから受け取った魔獣避け(改)のメンテナンスを開始しているわ。

 鞄から敷布を取り出して広げて座ったら、工具箱と受け取ったペグを並べる。
作業をするから胡座をかいて座ったけれど、行儀が悪いとは思わないでちょうだいね。

「何様だ。
それは魔法師となる俺がすべき事ではない。
魔力の低い、魔法もまともに使えない公女にこそ相応しい作業だろう。
それよりこちらは靴を汚されたんだ。
謝罪の一つも欲しいんだが?」

 まあまあ。
これが若者達に時折流行るという、いちゃもんというやつかしらね?

 まあいいわ。
どのみち使用頻度の高い魔法具を信用できない人に触れさせられるはずがないもの。

「そんな魔法具より公女、先程の討伐は何です?
貴女達グループは随分手慣れていらっしゃるようですが、リーダーでもないあなたが何故指示を出していたんです?」
「あらあら?」

 そんな魔法具より?
討伐に使用したのを直接見たはずの魔法具のメンテナンスを?
家格君といい、この金髪君といい、危機感が無さすぎないかしら?