「ふん、まだ入学して1年経っただけの未熟な学生がいる訓練だ。
びびって全員総動員で警戒するとはな」
「でも何だかこれまでと様変わりし過ぎではありませんこと?」

 相変わらずの不遜な家格君だけれど、索敵を使っているとは思っていないみたいね。
良いのかしら?
油断大敵だと思うわよ?

 訝しげなマイティ嬢は警戒するようにいつでも防御魔法を出せるように身構えているわ。
リム令息も。

 ある意味正解ね。

 家格君の隣のお孫ちゃんは索敵を使ったわ。

 正解よ。

「公子!」
「うわ!」

 周囲を警戒していたお孫ちゃんが家格君を蹴り飛ばした瞬間、彼のいた地面がボコッと陥没してそのまま穴に落ちてしまう。

 ギインッ。

 と、思ったのも束の間穴から鈍くぶつかる金属音がしてハイスピードに何かが上へ突き上がる。


「なっ」
「きゃっ」

 侯爵組2人は驚き、小さく悲鳴をあげ、尻餅をついてしまったけれど、自分達の周りだけ防御魔法を展開したわ。

 色々と残念な子達ね。
次から金髪呼びでいいかしら。

 でも確かに気持ち悪いわ。

 穴から長い胴体を見せて立ち上がっているのは巨大ムカデだもの。
上からならともかく、腹側から見るのは無数の脚がウゴウゴしてなかなかのグロテスクさよ。

「くっ」

 頭上からお孫ちゃんの声がして、上を見上げると抜剣して多分顎に当たる部分、毒のある顎肢の左の牙に斬りつけているわ。

 無言だけど、私達の目の前からリーダーのラルフ君は消えているの。
咄嗟の判断でミナ様の反対側の顎肢にに斬りつけているわ。
ムカデが上に突き上がる時に飛び込んだみたい。

「公女!」
「焼くと美味しいわ!」
「「「「はあ?!」」」」

 4年生達は取り敢えず無視ね!

「下処理方法!」

 もちろんうちのリーダーの声には反応してよ!

「ラルフ君は顎肢の1つ下の節を節に沿って切断!
毒が顎肢にあるから気をつけて穴の外に落として!
ローレン君、穴に火球!
カルティカちゃん、手分けして魔獣避け(改)(カッコ・カイ)!」
「「「了解!」」」
「「「「ええ?!」」」」

 お孫ちゃんも加わった4年生達は驚いているわ。
でも叫ぶ余裕があるのに役に立たないわね。
もちろんお孫ちゃん以外の事よ。

「命に感謝を!」
「「「美味しくいただきます!」」」

 リーダーのいつもの掛け声といつもの合言葉を私達2年生は声に出し、それぞれ行動する。

「カルティカちゃん!」
「はい!」

 私はまず手持ちの鞄からすぐに取り出せるようにしておいた長さ50センチほどのペグ2本とハンマー1つを可愛らしい眼鏡女子に手渡し、自分もそれを持って走る。
ペグはテントにも使える仕様なの。

 パキィン!

 まずはペグの1本を打ちつける。
あちらでは同じタイミングでカルティカちゃんも打ちつけたわ。

 上の円盤に魔力を込めてハンマーで打つと、対になるペグ同士がまずは連動の動きを見せるわ。
澄んだ音が響いたらオッケー。

「切断したらあっちに蹴り飛ばすぞ!」
「わ、わかった!」

 上空ではラルフ君と戸惑い気味のお孫ちゃんが協力してムカデの背面に回る。
あの手の虫型魔獣は背面に回れば攻撃は当たらないわ。

 2人が手にしている剣にラルフ君は風刃効果、お孫ちゃんは水刃効果を魔法付与させたわ。
その剣でまずは節と節の間の真ん中にそれぞれの剣を突き立て、それぞれが外側に向かって切断する。

『ギャアアアア!!』

 耳にキンとくる、つんざくような奇声を上げてムカデは這い出ながら暴れようする。
けれど私とカルティカちゃんがムカデの飛び出る穴の周りに4つのペグを突き刺して打ちつける方が早かったわね。

 4本全てに魔力が通ったわ。
全てのペグが連動と共鳴を起こし、ある波動を内に向かって放出し合う。

 つまり閉じ込め結界みたいな状態になったのだけれど、そのせいでムカデは穴から出られず、見えない壁に当たるのを嫌がるように暴れる範囲も狭まったわ。

 魔獣避けは本来なら囲われるのは人間で、魔獣が嫌がる波動を外に向かって放出して追い払うの。
けれどこの(改)は発想の逆転で、魔獣を囲って閉じ込めるのに使っているわ。

 各ペグを少し斜め上向きに刺しているから波動が共鳴、反響し合って上空まで効果を及ぼしているわ。
もちろん細工して本来の魔獣避けよりも放出する波動の力を大きくしてあるせいか、この使い方だと長くはもたないのとメンテナンスが都度必要になる事が難点ね。

 でも魔法具師科の私がいるから、魔力も価格も最低限で設置できちゃう分お得なの。