「君達も、もちろんシエナ、お前も勘違いをしているように思う。
私は厳しく注意をする事はあれど、1度として実妹であり()()嫡子であるラビアンジェ=ロブールを軽んじて貶めた事はない。
もちろん実父であるロブール公爵自身もだ」

 冷たく見据えれば、とうとう他の2人の令嬢達が涙ぐむ。

 侯爵家と四大公爵家とでは格が違い過ぎるのだから、仕方ない。

 しかし嫡子という言葉を出した途端に、義妹はむしろ涙が引いて膝の上でスカートを握りしめ、どこか悔しそうな顔に変わっていた。

 そうか……それがお前の本音なのか……。

 シエナが義妹であっても、俺にとっては実妹のラビアンジェと同じ妹だという認識は変わっていない。
むしろ失望具合でいえば、これまでの実妹の方が余程大きいと思う。

 だがその事と、この国の四公の公子としての認識は違う。

 シエナ、お前が貴族となったが故に養女であり、そして実母が平民であるという事実が、ラビアンジェとの立場の違いをはっきりさせているんだ。

 もしお前が両親を亡くさずに平民のままでいたのなら……もし父親の生家が四公でなかったのなら……義理の姉妹であっても生まれで身分や立場に差が出る事は無かったんだ。

 しかし当然だが、この学園を卒業した後の貴族社会においては同じ四公の公女であっても義姉より立場がいくらかは劣る。
引き取られたのが四公ロブール公爵家である以上避けられない。

 これまで俺自身がそれを指摘した事はなかった。
けれど才女と呼ばれるお前がそれに気づいていないとも思えない。
むしろ気づいたからこそ、才女と呼ばれる程に努力してきたのだとも思っている。

「私も最終学年となった。
君達の将来を潰さない為にも、特に1年生である君達が少し学園に慣れたタイミングで忠告しておいた方が良いと思ったんだ。
君達の目に余る言動が少しずつ増長していても、そもそも妹は相手にしていない。
もし妹がロブール公女として動くとすれば、増長した者が何かしらの手を直接出した時だろう」

 王子やヘインズが体を強張らせた気がするが、今は無視だ。

「わ、私達、流石にそこまでは……」

 3年生が恐怖に怯えつつも反論する。
少し前までの威勢の良さは完全に消えてしまった。

「今ですら目に余るのに、誰も手を出さないなどと何故思える?
ただその時は手を出さずに言葉だけの暴力を振るい続けた者も、見て見ぬふりをした者も同罪と見なすだろう」
「「そんなっ」」

 令嬢達が悲壮感をもった悲鳴のような声を上げる。

 シエナは相変わらず悔し気だ。

「当然だ。
言っただろう、既に目に余る状態だと。
君達の将来性を四大公爵家であるロブール家が消してしまいかねない可能性があったとしても、自身で責任が取れるのならこのまま続ければいい。
本来の四大公爵家にはそれだけの権力も財力もあるが、君達の生家や君達自身はどうだろうな。
それでは失礼する。
シュア、すまない。
申し送りは私抜きで頼む」
「ああ、任せてくれ」

 そう言って実はまだ妹の衝撃的実態に混乱する頭を抱えながら生徒会室を出て馬車に乗り込む。

 義妹の何か言いたげな視線は無視した。

 邸に着いて馬車を降りれば、使用人達が出迎えるよりも先に妹がいるだろう離れへと足早に向かう。

 コンコン。

 逸る気持ちそのままに、ドアをノックする。
耳を澄ましてはみたが1人で過ごしているからか、特に物音はしなかった。

 暫しの時間を置いている間に、離れを軽く見回してみる。
最後に見たのがいつだったのか思い出せないほど昔で、記憶にある離れよりもずっと小さく、あまりにも古びていた。

 それはそうだろう。

 ここは祖母がまだこの邸にいた時、1人の時間を過ごす為にだけ作られた小屋だ。

 祖父母は妹が産まれてすぐの頃、父に代を譲ってロブール家の領地の1つに移り住んだ。

 一昨年だったか、夏の長期休みを利用して祖父の領地経営を直接学びに祖父母のいる領地へ訪れた。

 その時にこの小さな離れを作った理由を知った。