『ラビアンジェ、お前はロブール家公女としての自覚が乏しいばかりか、義妹のシエナに対して身勝手に振る舞い傷つけている』
『そうよ!
お前は優しさの欠片もなくて出来が悪すぎるわ!』
『あらあら?』
食堂に入ってすぐ、少し後ろから父の気配を感じて、俺と父の間を歩いていた実の妹を振り向きざまにわざと糾弾した。
妹は立ち止まっていつも通りにのほほんと小首を傾げるだけだ。
そんな様子が更に俺の怒りを煽った。
『お兄様、お母様、私は良いのです!』
先に席に着いていたシエナが思わず立ち上がって私の隣へ駆け寄る。
『シエナ、姉を庇うお前の優しさはラビアンジェを駄目にする。
ラビアンジェ、私が良いと言うまで離れで過ごし、如何に自分が恵まれた境遇で過ごしてきたかを自覚しろ』
『そうね、ミハイル、それがいいわ!
ラビアンジェ、お前は私とミハイルの許しなく邸で過ごせるなんて思わない事ね!』
『まあ、ログハウス生活ね』
『『ラビアンジェ!』』
同じく席に着いていた母も近寄って掩護射撃に回れば、父がラビアンジェに追いついた。
俺の与える罰に何故か嬉しそうな素振りを見せた妹が、反省の色を全く見せていない事にまた腹が立って大きな声を出すと、母と被った。
父はただ黙って後ろから娘を見下ろしてため息を1つ吐くと、いつもの席へ向かう。
シエナはそんな父へと一瞬縋るような眼差しを向けた。
優しい子だ。
俺達を止めて姉を救いたかったんだろうと、この時は思った。
だが父は、そもそも私達家族に興味がない。
止めてもらえないとわかったシエナは一瞬悲しそうな顔を見せた。
『ああ、何て事!
義姉様、私のせいでごめんなさい。
後でいくらでもお怒りを受け止めますわ!』
『何を言っているの、シエナ!
ラビアンジェ!
自業自得の癖に義妹に悪さなんて、恥を知りなさい!』
『さっさと離れに行け』
そうして父のいる前で、かつて祖母が息抜きに使っていた離れと呼んでいる小屋で俺と母が許すと言うまで反省しろと勢いで言い放った。
母が便乗したのは謎だ。
母にはそんな資格はないだろう。
そしてこの時は、いや、今年に入るまでシエナは姉思いの優しい子だと信じていた。
そしてこの時以来、そんな風に実の妹であるラビアンジェをいつも手厳しく叱りつけるようになった。
実の妹がその日を境に、俺にも淑女の微笑みしか向けなくなったのに気づいたのは比較的すぐだ。
その笑みを見る度に、あの日から間違った選択をし続けたのだと身につまされるような気持ちになった。
シエナの言動に疑問を持つようになってからも、それでも歩み寄るには自分の中の様々な感情が邪魔をしている。
「今日は何の用件だ?」
呼びつけておきながらなかなか話そうとしない王子に痺れをきらせる。
そういえばいつも後ろに控えている側近候補で学園内では護衛をしているヘインズの姿が見えない。
王子は何かを少し迷ってから、ためらいがちに口を開いた。
「私があいつ、いや、ラビアンジェを傷つけたのはもう聞いているだろうか」
「ああ。
だが父も妹もその件は静観するとしているから、安心しろ」
「いや、それについては私が個人資産からラビアンジェに直接慰謝料を手渡す事で本人と話はついている」
「……そうか」
どうせこの俺様王子ははした金で黙らせたんだろう。
沸き上がる苛立ちを何とか押し込める。
そもそも妹と直接話がついたのなら一々呼びつけるな。
「呼んだのは、確認しておきたい事と伝えたい事があったからだ」
口止めか?
ため息が出そうだ。
「それで?」
「まず、慰謝料についてなのだが……」
「シュア」
「何だ?」
「それは当事者同士で勝手にやってくれ。
私は静観するよう言われている」
「ミハイル、お前も私がラビアンジェを傷つけた事を自分とは無関係だからどうでも良いと判断したのか?」
それはお前だろう!
王子の言葉にカチンときてそう叫びそうになる。
だが何とか抑えた。
「何が言いたい。
この件に関しては単に部外者だと言っているだけだ。
ここは王立の学園で、他ならぬ父とラビアンジェが放っておくよう教師を挟んで伝えてきたんだ。
シュアも在学中は好きにすれば良いさ。
そもそもシュアは妹を忌み嫌って無才無能だと好きに貶めても良いと思っているから、簡単にロブール公爵家公女に実害を与えたのではないのか?」
「待ってくれ、それは……」
「違うか?
私の記憶では養女のシエナや他の四公の子息達と何かにつけて私の実妹に暴言を吐き続けているだろう」
王子は、ぐっ、と言葉に詰まった。
『そうよ!
お前は優しさの欠片もなくて出来が悪すぎるわ!』
『あらあら?』
食堂に入ってすぐ、少し後ろから父の気配を感じて、俺と父の間を歩いていた実の妹を振り向きざまにわざと糾弾した。
妹は立ち止まっていつも通りにのほほんと小首を傾げるだけだ。
そんな様子が更に俺の怒りを煽った。
『お兄様、お母様、私は良いのです!』
先に席に着いていたシエナが思わず立ち上がって私の隣へ駆け寄る。
『シエナ、姉を庇うお前の優しさはラビアンジェを駄目にする。
ラビアンジェ、私が良いと言うまで離れで過ごし、如何に自分が恵まれた境遇で過ごしてきたかを自覚しろ』
『そうね、ミハイル、それがいいわ!
ラビアンジェ、お前は私とミハイルの許しなく邸で過ごせるなんて思わない事ね!』
『まあ、ログハウス生活ね』
『『ラビアンジェ!』』
同じく席に着いていた母も近寄って掩護射撃に回れば、父がラビアンジェに追いついた。
俺の与える罰に何故か嬉しそうな素振りを見せた妹が、反省の色を全く見せていない事にまた腹が立って大きな声を出すと、母と被った。
父はただ黙って後ろから娘を見下ろしてため息を1つ吐くと、いつもの席へ向かう。
シエナはそんな父へと一瞬縋るような眼差しを向けた。
優しい子だ。
俺達を止めて姉を救いたかったんだろうと、この時は思った。
だが父は、そもそも私達家族に興味がない。
止めてもらえないとわかったシエナは一瞬悲しそうな顔を見せた。
『ああ、何て事!
義姉様、私のせいでごめんなさい。
後でいくらでもお怒りを受け止めますわ!』
『何を言っているの、シエナ!
ラビアンジェ!
自業自得の癖に義妹に悪さなんて、恥を知りなさい!』
『さっさと離れに行け』
そうして父のいる前で、かつて祖母が息抜きに使っていた離れと呼んでいる小屋で俺と母が許すと言うまで反省しろと勢いで言い放った。
母が便乗したのは謎だ。
母にはそんな資格はないだろう。
そしてこの時は、いや、今年に入るまでシエナは姉思いの優しい子だと信じていた。
そしてこの時以来、そんな風に実の妹であるラビアンジェをいつも手厳しく叱りつけるようになった。
実の妹がその日を境に、俺にも淑女の微笑みしか向けなくなったのに気づいたのは比較的すぐだ。
その笑みを見る度に、あの日から間違った選択をし続けたのだと身につまされるような気持ちになった。
シエナの言動に疑問を持つようになってからも、それでも歩み寄るには自分の中の様々な感情が邪魔をしている。
「今日は何の用件だ?」
呼びつけておきながらなかなか話そうとしない王子に痺れをきらせる。
そういえばいつも後ろに控えている側近候補で学園内では護衛をしているヘインズの姿が見えない。
王子は何かを少し迷ってから、ためらいがちに口を開いた。
「私があいつ、いや、ラビアンジェを傷つけたのはもう聞いているだろうか」
「ああ。
だが父も妹もその件は静観するとしているから、安心しろ」
「いや、それについては私が個人資産からラビアンジェに直接慰謝料を手渡す事で本人と話はついている」
「……そうか」
どうせこの俺様王子ははした金で黙らせたんだろう。
沸き上がる苛立ちを何とか押し込める。
そもそも妹と直接話がついたのなら一々呼びつけるな。
「呼んだのは、確認しておきたい事と伝えたい事があったからだ」
口止めか?
ため息が出そうだ。
「それで?」
「まず、慰謝料についてなのだが……」
「シュア」
「何だ?」
「それは当事者同士で勝手にやってくれ。
私は静観するよう言われている」
「ミハイル、お前も私がラビアンジェを傷つけた事を自分とは無関係だからどうでも良いと判断したのか?」
それはお前だろう!
王子の言葉にカチンときてそう叫びそうになる。
だが何とか抑えた。
「何が言いたい。
この件に関しては単に部外者だと言っているだけだ。
ここは王立の学園で、他ならぬ父とラビアンジェが放っておくよう教師を挟んで伝えてきたんだ。
シュアも在学中は好きにすれば良いさ。
そもそもシュアは妹を忌み嫌って無才無能だと好きに貶めても良いと思っているから、簡単にロブール公爵家公女に実害を与えたのではないのか?」
「待ってくれ、それは……」
「違うか?
私の記憶では養女のシエナや他の四公の子息達と何かにつけて私の実妹に暴言を吐き続けているだろう」
王子は、ぐっ、と言葉に詰まった。