『ここは学園であり、王立。
学力と身分を重んじる理念であるからこそ、Dクラスの公女がAクラスの殿下方の暴言に何も反論せず、淑女らしく微笑んで受け流している限り我々教師もあえて見過しておりました。
公女の身分以下の、側近とも呼べない取り巻き方も含めて、です』
『な、彼らは側近だ。
教師とはいえ愚弄するとは……』
『側近とは主の行き過ぎた言動を諌める事も含めて正しき道を共に歩む者です。
そもそも正式な側近として王家より拝命を受けた者達ではないでしょう。
殿下が側近とお呼びになる彼らは殿下にただ同調し、己の立場より上の公女に殿下の威光を笠に着て暴言を吐き続けております。
彼らを取り巻きと呼ばずして何と呼べと?』
『だが……そもそもあの形ばかりの婚約者より身分が下ではない!』

 2年の学年主任の言葉についカッとなった。
全員が四大公爵家の令息令嬢だ。

『この国の王子殿下の婚約者であるからこそ、身分が同じ四公の令息令嬢であればロブール公女の()()が上となるのは当然の事。
貴方が婚約者をどれほど貶めようと、側近であるなら悪くともご自分達だけしかいない場での同調に留めこそすれ、それ以外の場で王子殿下の婚約者にして四大公爵家()()()であるロブール公女を睨みつけて暴言を吐き、貶める行為は決して許されないのですよ』

 嫡出子を強調したのは俺が次なる婚約者と暗に示すかのように連れ歩くシエナが養女だからだろう。

 思わず教師達全員を睨みつける。

 そんな俺に4年の学年主任は更に言葉を続けた。

 学園の教師は身分が低くともその立場を法により守られているが、この場の教師達は侯爵家と公爵家の者達だ。

 王子であっても強くは出られない。

『ですが王立とはいえ、ここは学園。
そして我々は教師であり、生徒を守る事が務めです。
守るべき生徒の中にはもちろん公女も含まれる。
公女がどう考えているか既に確認しております。
公女は気にするほどの事でもないから放置で良いと仰った。
貴方方も人目は気にしているのだから、本来許されない事とわかって暴言を吐いている、婚約者という互いの立場に甘えているのだと。
もちろん目に余るようなら自分で釘を刺す。
その程度の身分は持っている。
暴力がない限り我々にも静観するように。
そう我々に求めた』
『そ、んな……』

 気づきたくない事を、これまで己の感情を優先して蓋をし、見なかった事を目の当たりにする。

『もうお気づきでしょう?
あの方は学力も魔力も低い。
しかし無教養ではなく、この国の本来の秩序も正しく把握し、必要な際には諌めてきてらっしゃいます。
あの時の放課後の庭での一件もそうです。
あたかも集団私刑のような殿下方の恥ずべき行為をコントと笑い飛ばして殿下方を諌め、周囲にはいつもの一幕と思わせた』
『集団私刑……いつもの……』

 担任教師の言葉にこれまでの自分が周りにどう見られていたかを自覚していく。

『殿下は、殿下の取り巻き方も含めてロブール公女に守られてきたのですよ。
そんな公女が本当に噂通りの無能だと言えますか?』

 2年の学年主任の言葉に、もう何も言い返せず、俯いてしまう。

『これまでの暴言が表沙汰にならなかったのはここが王立学園で、公女の許しがあったからです。
学園外であれば公女の許しがあっても醜聞となり、王族とはいえ殿下の立場を危うくする程に行き過ぎた行為でした。
その上、あの衆人観衆の中で婦女子の腕をあそこまで腫れ上がらせるとは。
さすがに目に余ります。
加えて貴方はまず何を確認されましたか?』

 あの時いち早く駆けつけた担任教師の批難の響きを宿した言葉に思わず顔を上げた。
気づかれていたのだと、顔が羞恥に染まる。
 
『殿下は公女が痛みをはっきりと口にするまで腕の状態を見ようともなさらず、周囲を気にして公女への気遣いや謝罪は最後までされませんでした』
『わかって、いる』

 あいつの担任教師の言葉は胸を抉るが、その通り過ぎて言い返せない。