「シュシュはね、巷ではかなり流行っているらしいの。
中でもその発信元になった1年Dクラスがあの日販売したシュシュ全てにいくらかの付加価値が出ていて、おまじないもどきをかけたあの限定品は……ちびっ子王女の手に渡って……毒から身を守っちゃった」

 何となく、キャスちゃんから視線を反らしてしまったわ。

「やらかしたね」
「ある意味人助けになったのは悪くないけれど……やらかしたわ。
そのせいであの限定シュシュが更に付加価値がついたのは間違いないわね」

 思わずお互いため息を漏らしちゃった。

 キャスちゃん、またまたジトっとした目で私を見てない?
雰囲気でそんな気がするわ。
私、白いもふもふには意地でも視線、戻さないから。

「あのシュシュは別に魔法をかけていたわけじゃないのは知っているでしょ?
期間限定で私の魔力を僅かに留まらせるようにしていただけだもの。
不可抗力なのよ」

 そう。
持ち主が困った時、又は危険な時、私の魔力に気づいた愉快な仲間達やその遠からぬ眷族達が近くにいれば、状況に即して何かしら小さく手を貸してくれる。
そうなればいいな、くらいの軽いおまじないみたいなものなのよ。

 それに彼等はこの国の今の王族達が大嫌い。
それは前々世の私が絡んでいるから今の彼らにとっては不可抗力なのだけれど。

 もちろんダントツトップで嫌われているのは孫よ。
彼の場合は前々世の王族への因縁だけじゃなく、今世の私自身への不義理のダブルコンボで自業自得の問答無用なアウトね。

「王族とはいっても、まあ、まだ幼い子供までわざわざ嫌う感情は湧かないけどさ。
かといって好きでもないはずなのに。
どんな状況だったの?」
「それがね、あのシュシュをどうやらちびっ子王女の関係者が購入してプレゼントしてたらしいの。
その数週間後に題して【ちびっ子王女取り巻き選抜選手権お茶会】が催されて、事件が起きたようね」
「命名が酷い。
言葉そのままだよね?
ドヤ顔の意味がわからないよ」
「そんな……」

 キャスちゃんに愕然としたわ。
的確なネーミングのはずなのに。

「それで?」
「くすん。
それでね……」

 軽く流したキャスちゃんに涙を飲んで話をしたわ。
いいのよ。
私は今、最愛の妻に家庭内別居を強行されるかされないかの瀬戸際に立たされた夫のようなものだもの。
立場は弁えているわ。

 ちびっ子王女は今年8才になるの。
名前はジェシティナ=ロベニア。
現国王の2人の妃の内、ロブール家の傍系にあたる元侯爵令嬢の正妃、または王妃とも呼ばれる方が産んだ第1王女よ。
王妃の産んだ子供は他に現在22才の第1王子がいるわ。

 孫……は、この世代全員にあたるから今は婚約者にしましょうか。

 婚約者はアッシェ家の傍系にあたる元伯爵令嬢の側妃の子供で現状ではまだ私の婚約者である第2王子。
更に来年学園に入学予定の今年14才になる第3王子が同母弟にいるの。

 元々パワーバランス的に今の国王には側妃が必要だったのだけれど、第1王子が産まれた事、それから産まれて1年経つ頃に次の子が出来なかった事で選ばれたのが婚約者のお母様よ。

 ちなみに前々世ベルジャンヌの母親は正式な手続きを経た妃ではないの。
当時の国王が手を出した婚姻もしていない若い下女がたまたま妊娠した為に、愛妾という形にするのは醜聞だからと側室という形で王室に留まらせた。

 何の権限も持たされていない、ただ王の子を産んだだけ扱いされた、妻ですらない女が当時の側室よ。

 今は側室制度は撤廃されているわ。
稀代の悪女のせいらしいの。

 うふふ。
前々世の私ってば、しっかり爪痕を遺したのね。

 それで、お茶会だったわね。

 お茶会は薔薇の庭園って呼ばれる王家自慢の薔薇が咲き誇るお庭で催されたんですって。

 王妃の子供である第1王女の、取り巻きという名のお友達を作る為のものっていうのはもちろん暗黙の了解よ。

 けれど王妃の娘である王女の初めての正式なお茶会だし、臣下達には王女の立場を確かにする意味も込めたお披露目も兼ねているわ。

 王家は娘を大事にしているんだぞっていうアピールよ。