「うーん、これくらいの温かさが1番美味しく感じる。
ラビのハーブティーは最高だよ」
「良かったわ」

 聖獣様にお褒めいただいて光栄ね。
でも絶対温かくはないと思うわよ?
あら?
やっぱり猫科なの?
それともいっそ狐っぽい何か……。

「失礼な事を考えてない?」
「まあ、そんなわけないでしょう」

 真っ白な毛皮にぽやんとした可愛らしい狐顔なのだけれど、見た目に騙されちゃ駄目ね。
意外に鋭いわ。

「あいつ、ちゃんと直すのかな」
「どうかしらね。
そうなってくれるなら、それはそれでありがたいわ」

 もう邸の方へ帰っていただいたお兄様は、あの後も何度か謝っていたの。
とってもうざったくなるくらい。

 新手の嫌がらせかと思ったわ。
それに何度も謝られるとむしろ嘘っぽく感じちゃうのよね。

 そもそもお兄様に対して悪い人でないのはわかっているけれど、信用もできないもの。

 でもいい加減うざった、じゃないわね。
気の毒になって仕方がないからお兄様にも慰謝料請求したの。
もちろんお兄様のポケットマネーで出せる範囲でのお願いよ。

 謝罪を形にさせて受け取る事でいくらかお兄様の気が済むでしょうし、たまたま生じた罪悪感が無くなればまた私への関心も薄まるはずよ。

 といっても今回はお金じゃなくて、物。

 ほら、そこのドアの鍵が壊れていたじゃない?
それに他に幾つか修繕して欲しい所もあったの。

 正直使用人に頼んでもお母様に伝えてもらえるかも、それを聞いたお母様が修繕するかも怪しいのよね。

 とはいえ私が直接伝えると絶対修繕しない方向に舵を切るのが今世のお母様よ。
彼女、捻くれててとても面倒臭いの。

 仮に修繕してもお母様が手を加えた場合にはまたどこかの従妹で義妹が壊しそうでしょう?

 お兄様に修繕させて、あえて保護魔法と盗難防止の魔法をかけてもらう事を表沙汰にするようにしてもらったわ。

 そうする事でこれまでにされた数々の事も含めた器物損壊犯や窃盗犯達への抑止力と警告になるじゃない?

 どうせなら今までわざとお目溢ししてあげてた何かしらの犯人にも、罪の意識と逮捕されるかもしれない恐怖を植えつけようって魂胆よ。
犯人のおおよその見当はついているけれどもね。

 ふふふ、どうかしら?
悪女みたいでしょう?

 それにしてもキャスちゃんはどこでこっそり盗み聞きしていたのかしらね。
聖獣だけあって、本気で気配を消されたら探すのは大変なのよ。

「そういえば、最近、といってもここ数ヶ月だから最後はシエナの入学前試験の少し前あたりかしら?
その頃からここへの犯罪行為が減ったのはお兄様のお陰みたいね」
「えー、何で?
あいつのおかげとか、何かやだ」

 あらあら、可愛らしいほっぺがまた不服そうにぷーって膨らんだわ。
つついたら怒られそうだからしないわ。
したいけど。
うちの子愛嬌あって可愛らしいのよ。

「シエナが自分の物と言ってシュシュを探していたらしいのだけれど、それがあの時のDクラスで作ったシュシュだったの」
「これ?」
「そう、それ」

 キャスちゃんは左手にはめているシュシュをマジマジと見る。

 そう、今はシュシュって言えばここの世界でもこれなのだけど、髪をまとめるあちらの世界でもお馴染みのシュシュ。
去年までこの世界には無かったの。

 何せゴムが無いのだもの。
通常は紐やリボン、ボタンなんかで止めるのよ。

 それが何故Dクラスで作れたのか、よね。

 事の発端は年明け学園祭。
まあ文化祭とも言うわね。

 あちらの世界での私の青春時代は秋頃が多かったかしら?

 だけどこちらでは最終学年の就活が落ち着く初冬までは入学に絡むイベント以外、学園全体としての大きなものは特にないの。

 平民用の学園ほどではないけれど、この学園も卒業後の生徒の身の振り方には重きを置いていてね。

 学園祭は卒業生が落ち着いた年明けに行うのよ。
2日にわたって行われて、最終日の夜はドドーンと花火が打ち上がるわ。

 秘密の特等席から見る光と火の魔法で彩る冬の花火は、まさに絶景。
前々世の王女だった私が入学してから始まったこの花火の風習は、当時の私の心からのお楽しみだったのよ。

 今では王都の冬の風物詩でもあるの。

 もちろん多くの婚約者や恋人が共に過ごす学園祭の夜の素敵イベントは、私と孫には無関係ね。

 孫は入学前の婚約者の従妹で義妹と楽しんだみたい。
翌日にあの子が突撃訪問してきて教えてくれたの。