「本当の事だったとしても、お義姉様だって努力しているはずですもの。
お可哀想です」

 あらあら?
擁護されていなかったわね。
むしろけなされているわ。

 血縁上はお父様の兄の娘で従姉妹関係なのだけれど、伯父様が平民の女性と駆け落ちして11才まで市井で育ったの。
伯父様夫婦と共に落石事故に遭って、夫婦は他界。
遺体となった伯父様から出てきたロブール家の紋章入りカフスと、既に魔法の適性があった事が縁でお父様が引き取って養女になったわ。

 我が家に初登場した時は腕に包帯を巻いていたのだけれど、実はほぼ治ってたのよね。
痛がっていたから鑑定したのだけれど、腕の魔力は循環していたもの。
怪我や病気になると魔力の循環が乱れるから、鑑定すればすぐにわかるのよ。

 触れずに見るだけでわかる人は少ないのだけれど、そういえばお父様もそれくらいできそうね。
お兄様も今なら出来るでしょうけれど、当時は無理だったはずよ。

 初めましての挨拶がてら怪しまれない程度にこっそり治癒魔法を使おうかと思ったけれど、もちろん止めたわ。

 突然の貴族ライフですもの。
両親を亡くして怪我も癒えていない可哀想な娘をアピールしたかったのよね、と微笑みを向けただけよ。

 何故だか怖いって泣かれたのだけれど、不思議よね。
昔から微笑みだけは公女らしいって評判なのに。

「あら?
もしかして庇ってくれているのかしら?
ありがとう。
でも口元を3度右へ傾けないと見えてしまうわよ?」
「お義姉様?!」

 抗議の声を出して立ち上がると同時にガタンと椅子が倒れてしまう。

 まあまあ、マナー違反よ?

 わかっていただけるかしら?
従妹で義妹なシエナの性格はなかなか捻れているの。
主に私に対して。

「ひどい……」

 涙がいつも通り出し入れ自在って、ある種の才能だと思うわ。
でも毎回私へ視線を向けては口元がニヤついているのよね。
私にしか見えにくい絶妙な角度なのはともかく、今日は惜しかったわ。
慢心は駄目。
精進なさいね。

 激励の意味も込めて微笑んでみたのだけれど、伝わらなかったみたい。

 私にだけ見える角度から悪鬼のように睨みつけてきたわ。
さすがに可愛らしいお顔が残念だから、戻しなさいね。

「はぁ、部屋から出て行け」
「そうよ!」
「そんな!
(ニヤリ)」

 お父様の言葉に女性2人はそれぞれ同調する。
お兄様は私を軽く睨むだけで無言だけれど、彼女達に同調まではしていないのかしら?

 あとシエナ、またニヤニヤしてるけれど今度は3度左に行き過ぎよ。
首の曲がりが不自然になったわ。
でもこんな時は素直に私の忠告に従うなんて可愛い従妹で義妹だこと。

「お食事が終わっておりませんのに?」

 そうなのよね。
食べ始めて比較的すぐに起こったお母様発の断罪劇だから、皆まだそんなに食べていないのよ。

 今日は仲良し料理長さんの作った至極の料理達なのに、もったいないわ。

 そもそも私の学園の成績なんて気にしなくて良いと思うの。
進級落第点ぎりぎりセーフを毎回死守しているのだから、問題ないのに。

 それに今はまだ席を立ちたくないでしょ?
シエナも倒れた椅子をメイドが起こしてくれて、座り直したばかりじゃない。

「食事中に騒ぐからだ」
「その通りよ、ラビアンジェ!
何も貢献しないお前には食事する権利はないのよ!」
「そもそもあらゆる意味において不出来で公女として自覚の乏しいお前がいては食欲が無くなるが、騒がしいのは私も否定しない。
父上、申し訳ありません」
「お義姉様お可哀想!
せめて食べかけのパンくらいはお持ちになって!」

 お父様の言葉に賛同して追い出そうとする2人と謝罪する1人。
あと、シエナったら絶対私だけ姉じゃなくて義姉って念じながら発言してるわね。

「あらあら?」

 まあいいわ。
ただ対面の2人は言葉の意味をはき違えていないかしら?

「お前達だ」
「「え?」」

 2人共お父様の言葉をすぐには理解できなかったみたいね。

「出て行くのはお前達2人だ」
「「そんな?!」」

 今度は理解できたのか、抗議の声を上げる彼らを横目にお父様がパチリと指を鳴らす。
次の瞬間には彼らの姿は忽然と消えてしまったわ。

 シン、と部屋は静まり返る。

 さすがね。
あの扉の外から2つの気配を感じるから、すぐそこにいるのは間違いないけれど音は聞こえない。
防音の魔法でも使っているのね。