「これ、どうやって持って帰ったの?」
「……背負って……」

 もう!
そんな呆れた顔しないで欲しいわ!
藍色に金の粒子が散ったような、可愛らしいつぶらな視線が何故だか痛いのだけれど?!

 まあそうね、あちらの世界のサンタが抱えてそうな袋1杯分くらいの金貨だものね。
令嬢が背負ってなんておかしいわよね。

 でも本当ならもう2袋分くらいあったのよ?
どうでもいいけど王子殿下のポケットマネーってそんなのポンて出せるくらいあるのね。
そこはビックリよ。

 でも持って帰るのが大変なのもわかってたからお断りしたの。
ほら、私徒歩通学じゃない?
大袋3つ担ぐのは令嬢としてないなって、ちゃんと判断したの。
日を分けて持ち帰っても悪目立ちするでしょうし。
えらいでしょ。

 それを伝えた時の孫とお供君のお顔を思い出すと少し面白いわね。
人って心から愕然とすると乙女ゲーム的ハンサム男子もあちらの世界の名画のようなムンク風のお顔になるのね。

 慌てて馬車で持って行くって言われたんだけれど、今まで婚約者としての交流も無かったから絶対誰かに見つかって怪しまれるでしょ?

 しれっと亜空間収納に放り込むにしても、人目をはばかるのよね。
亜空間収納って高等魔法だから、コツを掴めないと維持し続けるのも大変なのよ。

 そんなのに魔力の低いまともに魔法が使えない公女の私が放り込むのを見られてしまうと……ねえ。

 小袋で小分けにするにしても、同じく交流のない私達が頻繁に会うのはとっても不自然。

 で、ぎりぎり無理できる範囲で1袋だけをサンタスタイルで持って帰ったの。
もちろん重力操作してたし、人気が無くなったら亜空間に放り込むつもりだったわ。

 ただね……気を利かせたのか孫の婚約者になって初めて護衛がついたみたいなの!
今までみたいな定期的などこぞからの監視ではなくて、帰宅するまでつかず離れずの護衛よ!
余計な事してんじゃないわよ!
どこぞのセキュリティ会社の回し者なの!
このバカ孫!
雰囲気読みなさい!

 ああ、お口が……でもそのせいで帰宅するまでずっと重い荷物のふりしなきゃだし、裏口から入ったところで結局使用人の何人かに見られてしまったわ。

 中身が何かまではわかってないでしょうけどね。
何せ今世の私がお金持った事ないのなんて、この家じゃ使用人も含めて周知の事実よ。

 大袋一杯の金貨とは縁が無さすぎたわ。 

「むしろしまりとだらしがない……」
「まあ、酷い。
でもお金が大好きなのだから仕方ないわね」

 あら、キャスちゃんの言葉に現実世界に舞い戻ったじゃないの。
酷いけど、納得。

 そう、私は自分名義のお金に関しては昔から……そうね、前世から好きなのよ。

 自分で稼いだお金って見てると苦労が報われるじゃない?

 もちろん前世は現金よりクレカや電子マネー主義だったから、通帳の残高見てヘラヘラ笑ってたわ。

 あの時の私の夫はそんな私をいつもそっと遠巻きにして諦観の笑みを浮かべて見ていたわね。

 そんな夫が何だか可愛らしかったのを覚えているわ。
ふふふ、穏やかで至福のひと時だったのよ。

「何を買おうかしら。
やっぱりハーブやスパイスの苗は欲しいわね。
ああ、岩塩もそろそろ……」

 なんて言いつつ、頭の中で欲しい物リストを作成していく。

 するとコンコンとドアが叩かれる。

 瞬時に亜空間へ金貨を移したわ。
人目を気にしなければこんなのすぐなのよ。

 キャスちゃんも姿を消してるわ。
素早いわね。

 それにしても珍しい。

 来客はもちろんだけれど、シエナなら問答無用でドアを開こうとするだろうし、仲良し料理長や滅多に来ない他の使用人なら必ず声を一緒にかけるのに。

「……」

 無視ね。
怪しい音には反応しないわ。

 コンコン。

 ……無視無視。

 コンコン。

 しつこい……念の為、気配を探って……あら?

「どなた?」
「私だ」

 そうね。
ふふふ、何だかあちらの世界のオレオレ詐欺みたい。

 私が気配をよめない普通の令嬢なら、声ですぐわかるほどの関わりを持たない私さんがお兄様だなんてわからないはずよ?

 そう思いながらこの部屋の奥に位置するベッドから降りてドア近くに設置してある小さなテーブルのあたりへ移動する。

「どちらの私様?」
「ちっ。
お前の兄のミハイル=ロブールだ」

 まあ、舌打ちなんてドアの向こうからでも失礼ね。
それより兄と呼ぶなと言ったり自分は兄と言ったり、忙しい人ね?
まあいいわ。