「ユーリは水が好きなのか?」

 私はボ〜ッとペンギンが泳ぐ姿を眺めていた。

「ん? そうね。私の故郷が海に囲まれた島国なのよ。それで… 水族館は年に何度か来るかな」

「そうか。しかしこの装置は不思議な物だな。こんな外で、しかも透明なガラスか? 水を入れて… これで魔法を使用していないなんて。本当にこの世界の技術者には驚かされる」

「あはは、クリスったら。そればっかじゃん。ここまで来るのにどれだけ時間かかったんだか。クリスにはこの世界がどう見えてるのかな? 私は便利だけど… 時々寂しくなるよ」

「… 色々な物があるのも考えものか。まぁ私は楽しくてしょうがないがな」

「ふふふ。私も上京した当時はクリスのように毎日がワクワクしてたよ。わかる」

 と、私は気を取り直してニコッと笑顔に戻る。クリスは私の横に座り、一緒にボ〜ッとペンギンをしばらく見るのを付き合ってくれた。

 って、やっぱりクリスは… 女子ホイホイだよね。そこらの女子がペンギンではなくクリスを見ているのだから。人だかりができる前に、そろそろ移動しようかな。

「クリス? これから他の街にでも行く? 下町とか?」

「いや、街はもういい。人が溢れすぎて… 恐らくどこもこんな感じで賑わっているのだろう?」

「まぁ、そうね。今日は休日だから余計かも」

「私は静かな場所に行きたい。自然がある場所はないのか? それこそ海はないのか?」

「海ねぇ… 海はちょっと遠いかな。ありがとう、私のために言ってくれたんでしょ? なら、今日はもうお土産でも買って帰ろうか? 記念に」

「よし」

 今日ちょっと思ったけど、やっぱり世界が違うからなのか、クリスは何気ない所でいちいちスマートだ。エスコート慣れ? って言うの?

「クリスって女性にモテそうだよね?」

「そうでもないぞ? 私は魔法塔からあまり出ないし、社交界にもあまり顔を出さないからよく分からないが。こんなに女性といて楽しいのはユーリが初めてだ。そう言うユーリはどうなのだ? 恋人か婚約者はいないのか?」

「婚約者って。あはは。そんな人、いたようないなかったような… まぁ、私も色々ありまして」

「なんだ? 気になる言い方だな。さては逃げられでもしたのか?」

「ん〜そんなとこ」

「… すまん」

「やだ〜、気をつかわないでよ。もう何年も前の話だし。ごめんごめん、私も匂わせちゃって」

「まぁ、まだ若いんだ」

「何そのオヤジ臭い言い方。って、そう言えばクリスって幾つなの?」

「私は二十三だ」

「え!!! まさかの年下! 嘘でしょ! 顔のせいなの? 年上に見える」

「あはは。そうか? あまり変わらんだろ。年下は嫌か?」

「嫌ではないけど。ってお土産コーナーだよ。このペンギンの、チ、チャームとかどう?」

 と、ペアで持つキーホルダーを慌てて勧めてみる。子犬の目で『歳下は嫌か?』とか。めっちゃ焦るじゃん。耐性ない私にはドキドキしすぎて身が持たない。

「ほら、ここが磁石になっててくっつくの。お揃いになるんだ。お互い一つ一つ持ってさ。今日の、って言うか異世界の記念に」

「あぁ、いいな。絵が描かれているアクセサリーか。珍しい。これにしよう」

 それからまたラーメンを食べて帰路に着く。すっかりラーメンの虜になったクリスは店主と仲良くなって、ここでも周りを魅了していた。

 日が暮れた私のアパート前には、友達の山ちゃんとカノンが来ていた。

「きゃ〜、何そのイケメン! どこで捕まえたの!!!」
「まさか、休むって男!?」

 二人はワクワクしながらクリスを上から下まで見定めている。

「彼氏じゃないって。ちょっと訳ありで。まぁまぁ上がって? 部屋で話すよ」

 それから二人をクリスに紹介し、昨日の夜に起きた事を話した。