「煩いなぁ⋯」
頭の中で繰り返し聞こえてくる嫌な声。
忘れようと必死にもがいても結果はいつも同じで、現状維持なのがとても煩わしい。嫌な思い出から逃れようと必死にもがけばもがくほど、自分の思い通りにならないことはもう既に分かりきっている事だった。
だから余計に鬱陶しい。
「あの、ごめん。えっと⋯」
また彼樋渡さんが僕の傍に寄ってきて、多分無自覚であろう上目遣いをしながら謝ってきた。
不思議な雰囲気を纏った樋渡さんは、オドオドして僕のことを見つめる。
樋渡さんは、ダメなところが明確すぎて面白味がない。
1つ、彼女の悪い所は、自分を責めたててしまうところ、それともう1つ付け加えるとすれば⋯。
自分が全く無いところだ。
まるでマリオネットのように従順で、人を疑うことを知らない純白の心はきっと誰よりも白く美しいと思う。そのせいで彼女は自分を1番に見てあげられないのだろう。
「⋯別に。君のせいじゃないよ」
できるだけ手早く済ますために優しい声色で彼女に言葉を返す。
「でも⋯その⋯」
あわあわとした表情で言葉を探している。でも、ピッタリの言葉が見つからないのだろう。
言葉に詰まっているのが見て取れる。
遅い⋯。テンポの遅い会話、周りの戯言が鬱陶しくてついカッとなった。
「⋯あー、もう!!煩いな!」
「⋯え、?」
僕が怒鳴り声をあげると、クラスのみんなが注目した。先程の空気感とは一変し、一気に凍りついてしまった。
彼女は僕の怒鳴りに恐怖感を抱いたらしく、腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。
「悪い、別に脅かそうってわけじゃ⋯」
「ごめんなさい、ごめんなさい。私が⋯私が怒らせて⋯」
震えながら呼吸を荒らげ、何度も何度も謝る。
必死に謝る姿はまるで、僕に怯えているのではなく、過去のしがらみから必死に逃れようともがいているように感じ取れた。
彼女の手を取って立ち上がらせる。
一旦落ち着かせようと思ったものの、今の状況からして、たくさんの視線がある中で落ち着けるわけもない。
僕は教室を諦めた。だが、彼女はしんどそうで、歩けないようだった。
こんなところでとどまっている訳にもいかず、気合を入れて彼女を抱き抱え、保健室へと向かう。少し呼吸が荒くなっているからか、抱き上げても何も言葉を発しなかった。
保健室に着くと、先生は出張中だとドアの前に張り紙があった。幸い保健室は使えるようで、僕は彼女を保健室のベッドに座らせ、水をコップ一杯用意した。
「一旦落ち着いて飲んで⋯」
「あ⋯ありがとう⋯」
数分経った頃、彼女が急に立ち上がって僕に頭を下げた。
「ごめんなさい⋯あんな醜態晒した上に迷惑までかけてしまって⋯」
「謝るな。僕の方こそ声を荒らげてしまって申し訳なかった」
「い、いえ。全然」
「そうか、ありがとう」
沈黙が痛い。シーンとした空気は大嫌いだ、あの日を思い出してしまうから。母さんが⋯独りで泣いていたあの日を。
「⋯僕はもう教室に戻る。君は休んで、もうしばらくしたら帰るといいよ。荷物は後で先生に持ってくるようにいっておくし」
彼女は慌てた様子で僕を引き止めた。
「で、でも。迷惑かけるのは⋯」
「迷惑じゃないって言っただろう⋯。それに、今回のことは僕が悪いんだ⋯せめてもの、償いだよ」
何かを察したのか、彼女はあれ以上何も言ってこなかった。
頭の中で繰り返し聞こえてくる嫌な声。
忘れようと必死にもがいても結果はいつも同じで、現状維持なのがとても煩わしい。嫌な思い出から逃れようと必死にもがけばもがくほど、自分の思い通りにならないことはもう既に分かりきっている事だった。
だから余計に鬱陶しい。
「あの、ごめん。えっと⋯」
また彼樋渡さんが僕の傍に寄ってきて、多分無自覚であろう上目遣いをしながら謝ってきた。
不思議な雰囲気を纏った樋渡さんは、オドオドして僕のことを見つめる。
樋渡さんは、ダメなところが明確すぎて面白味がない。
1つ、彼女の悪い所は、自分を責めたててしまうところ、それともう1つ付け加えるとすれば⋯。
自分が全く無いところだ。
まるでマリオネットのように従順で、人を疑うことを知らない純白の心はきっと誰よりも白く美しいと思う。そのせいで彼女は自分を1番に見てあげられないのだろう。
「⋯別に。君のせいじゃないよ」
できるだけ手早く済ますために優しい声色で彼女に言葉を返す。
「でも⋯その⋯」
あわあわとした表情で言葉を探している。でも、ピッタリの言葉が見つからないのだろう。
言葉に詰まっているのが見て取れる。
遅い⋯。テンポの遅い会話、周りの戯言が鬱陶しくてついカッとなった。
「⋯あー、もう!!煩いな!」
「⋯え、?」
僕が怒鳴り声をあげると、クラスのみんなが注目した。先程の空気感とは一変し、一気に凍りついてしまった。
彼女は僕の怒鳴りに恐怖感を抱いたらしく、腰を抜かしてその場に座り込んでしまった。
「悪い、別に脅かそうってわけじゃ⋯」
「ごめんなさい、ごめんなさい。私が⋯私が怒らせて⋯」
震えながら呼吸を荒らげ、何度も何度も謝る。
必死に謝る姿はまるで、僕に怯えているのではなく、過去のしがらみから必死に逃れようともがいているように感じ取れた。
彼女の手を取って立ち上がらせる。
一旦落ち着かせようと思ったものの、今の状況からして、たくさんの視線がある中で落ち着けるわけもない。
僕は教室を諦めた。だが、彼女はしんどそうで、歩けないようだった。
こんなところでとどまっている訳にもいかず、気合を入れて彼女を抱き抱え、保健室へと向かう。少し呼吸が荒くなっているからか、抱き上げても何も言葉を発しなかった。
保健室に着くと、先生は出張中だとドアの前に張り紙があった。幸い保健室は使えるようで、僕は彼女を保健室のベッドに座らせ、水をコップ一杯用意した。
「一旦落ち着いて飲んで⋯」
「あ⋯ありがとう⋯」
数分経った頃、彼女が急に立ち上がって僕に頭を下げた。
「ごめんなさい⋯あんな醜態晒した上に迷惑までかけてしまって⋯」
「謝るな。僕の方こそ声を荒らげてしまって申し訳なかった」
「い、いえ。全然」
「そうか、ありがとう」
沈黙が痛い。シーンとした空気は大嫌いだ、あの日を思い出してしまうから。母さんが⋯独りで泣いていたあの日を。
「⋯僕はもう教室に戻る。君は休んで、もうしばらくしたら帰るといいよ。荷物は後で先生に持ってくるようにいっておくし」
彼女は慌てた様子で僕を引き止めた。
「で、でも。迷惑かけるのは⋯」
「迷惑じゃないって言っただろう⋯。それに、今回のことは僕が悪いんだ⋯せめてもの、償いだよ」
何かを察したのか、彼女はあれ以上何も言ってこなかった。