「おい!菜乃花来!!授業中に居眠りをするな!成績を下げるぞ!」
先生に注意されて自分が教室で授業を受けていることをやっと自覚する。
みんなの薄い笑い声が四方八方から聞こえてくる。
「大丈夫?ごめんね、私が起こしてたらこんなことには⋯」
隣の彼女は樋渡楓。ネガティブ思考だが、とても優しくて、僕と同じように弱い人間だ。
「⋯樋渡さんのせいじゃないよ」
最初はただの隣の席の人だった。でも、彼女が纏う独特な雰囲気は、僕の何かをくすぐって目から離せなかった。
気づけば僕はずっと彼女を目で追っていた。
それに、樋渡さんを見ている時、何故か彼女のことを思い出してしまうから。
授業が終わったあと、念の為に樋渡さんに声をかける。
「さっきのこと気にしないでね、僕は大丈夫だから」
そう言って僕は席を外す。彼女は何か言いたげそうに僕の服の裾を掴んだ。
少し戸惑って振り返るも、彼女はあたふたした表情で言葉を探していた。
「なに?」
「あ、えっと⋯。ごめん、なんでもない」
彼女は申し訳なさそうに頭を下げ、自分の席へと戻って行った。
周りをチラチラとみている。多分樋渡さんは視線を気にしたのだろう。
まぁたしかに⋯これだけたくさん注目されていると、話がしにくいのもわかる気がする。
でも、残念ながら僕は普通じゃない。なんらかが欠損している欠陥人間だ。
周りから白い目で見られるのも、聞こえるような声で陰口を言われるのも、あいつのせいでもう慣れてしまったから。
僕の幸せな家庭を壊した最低な父親のせいで。
あぁ、また聞こえてくる。僕のことを罵る声が⋯。母さんのことを馬鹿にする言葉が⋯。
煩い⋯。あいつのこえがあたまにこびりついて離れない。
忘れたいのに⋯。黙ってくれ⋯頼むから⋯。