あれから3年の月日が経って、僕は立派な大人になった。大人は大人だが、まだお酒や煙草が窘めるような歳じゃない。

あの出来事があってから、夢の中、頭の中で繰り返し流れ続けた映像も、今はもう見ることは無い。
最初は開放感が感じられたが、無くなってしまえば喪失感の方が強かった。
少し寂しい感じもするが、1歩前に進めたということだろう。

しかし、僕は大人になれないまま、歳だけをとって大人になってしまった。

いつまで経っても1歩が踏み出せず、結果現状維持が続いてしまっているのだ。

「大人になるってなんだろう⋯」

あの日のハンカチを鍵の着いた引き出しから出す。涙のようなシミの跡は日を追う事に薄くなっていき、今ではもう見えなくなってしまった。

今思えば、あの日の出来事が僕に力をくれた。弱く何も出来なかった僕を、強く逞しく育てたくれた。

「今更すぎるけど⋯本当に感謝してるよ」

ハンカチをぎゅっと胸に押付けながら、静かに涙を流す。

あれからずっと、蒼が僕に会いに来てくれた理由を探していた。
母さんが急に普通になったことも、樋渡さんと仲良くなったことも、不思議でたまらなかった。

こんなにも奇跡みたいな偶然が重なり合うなんてこと、有り得るのだろうか。
いや、多分有り得ないだろう。僕はそこまで運に恵まれた人じゃない。

だから僕は自分の中で勝手に答えを出した。

「蒼が僕のために⋯してくれた事なんだね」

自分勝手すぎる解釈かもしれない⋯でも、そう信じていたかった。

僕と蒼の唯一の繋がりだから。

ごめんね、蒼。
1度は君を僕の記憶から無くしてしまって、約束を果たせないまま君は空へ舞って行ってしまった。

でも、僕はもう二度と君を忘れたりなんかしない。
だから、今更だけどできないかな、君との約束を果たすこと⋯。

これからも僕と一緒に生きて欲しい


僕の記憶と創造の中で ―― 。


すると、鍵に着いた星のチャームが揺れ光り、僕をそっと照らしてくれた。

「ありがとう蒼、受け入れてくれて⋯」