「母さん⋯」

「来⋯おかえり。ご飯できてるよ⋯」

当たり前の日常が、当たり前に過ぎていく日々。それがどんなにも尊いことなのか、僕は知らなかった。

そんな僕もやっとその尊い日常を、尊いものとして扱えるようになった。
それでも、時は無情にも早く過ぎ去っていく。
誰しも必ず、終わりはやってくる。その終わりをより幸せな環境で迎えられるよう、みんな必死で人生を歩んでいくのだ。

死というものは、誰にも平等に与えられる印。
人生に終止符を打つ瞬間、何かから解放させる瞬間でもある。

誰かに聞いたことがあるが、人は死んだ後にもう一度死を体験するらしい。つまり2度死ぬということ。

1度目は命が朽ち果てた時、2度目は故人が生きた証が忘れられた時、故人が人々の記憶から無くなった時。

僕は、僕がいたという記憶が、ずっと他の人の記憶の中にあり続けて欲しいとは思わない。

だけど

1度でもいいから、ふとした瞬間に僕を思い出して欲しいと思ってしまうのは、傲慢なのだろうか⋯。