「あ、お母さん」
「ん?」
家に帰ってきて少し経った頃。キッチンに立つお母さんの背中に、こう問いかけた。
「突然なんだけど、俺が小っちゃい時一緒に遊んでた、きこちゃん覚えてる?」
「…あぁ、きこちゃん!懐かしいね。それがどうかしたの?」
覚えているようでよかった、そんな早く忘れないか、と考えつつ、話を続ける。
「あのさ、実は俺が行ってる本屋で、きこさんアルバイトしてて。夏休みに入ってから知ったんだけど、本貸してもらったりしてるんだよね」
お母さんが、驚いたような、嬉しそうな顔になる。
「えー!?そうなの!?というか、もっと早くに知らせてよ!なんで知らせてくれなかったの?」
だって、話すほどのことじゃないと思ったから。そんなわけないでしょ、もっと早く知りたかったよ。
そんなチクチクしたやりとりが続いたので、本題に無理やり戻す。
「それで!!なんかきこさんのお母さんが、俺に会いたいんだって。だから、俺明日きこさんの家行ってくる」
「そうなんだ!行ってらっしゃい。迷惑かけないようにね。私も会いたいから、お菓子持っていくついでに、蒼真について行こうかな」
「お母さんこそ、ついて行って迷惑かけないでよ…」
お母さんといつもより話をして、懐かしい記憶と再会した。
次の日、俺はお母さんと一緒に、きこさんのお家に行った。
「いらっしゃい!…って、そうまくんのお母さん!?お久しぶりです、きこです!」
「わーきこちゃん!大きくなったねぇ、蒼真の母です。本を貸してもらっているみたいで、ごめんね」
「いやいや、そうまくんと本の話するの、すごく楽しいですよ!あ、お母さん呼んできますね」
俺と話すの、楽しいって思ってくれててよかった。
そんなことをのんきに考えてしまっている自分が恥ずかしくなった。
お母さんはきこさんのお母さんと懐かしそうに話をしていた。きこさんのお母さんも変わらず、優しそうな顔で微笑んでいた。
「そうまくん、どうぞ上がって」
「え、でもきこさんのお母さんが…」
「大丈夫大丈夫!上がって上がって!」
「えぇ…?お、お邪魔します」
温かい家だった。雰囲気が、柔らかくて、温かい家。
俺は、リビングに通された。
「麦茶でいい?ごめん、大したもの出せなくて」
「ありがとうございます。麦茶好きなので大丈夫ですよ」
氷の入ったグラスに、透き通った麦茶がカランと注がれて、コロンと氷が音を立てる。
「向日葵、育ててるんですか?」
俺は、庭に大きく生えている向日葵に目をやった。
「うん。お母さんの趣味が園芸だから。季節のお花を植えてるんだ」
向日葵は、太陽の方に向いて、大きく笑っている。