「愛してる、ミルティア。本当はお前がここを突然出て行った時には、自分の気持ちに気づいていた。冒険者になったのは、お前を探す為だったんだ。だけど……ごめん。結局俺は自分の事で余裕を無くしていた。あの日死の森でお前と再会できたのに、素直に想いを伝える事ができなくなっていた」

 カインは私と目を合わせて静かに語り始めた。その瞳には熱を感じてしまって、何だか耳と胸の奥がくすぐったい。

「お前が俺をここに転移させた時、両親に宛てた手紙を忍ばせていただろう?」
「ええ」
「それを読ませてくれたんだ」
「え……」

 突然のカミングアウト。思わず絶句してしまったわ。カインに内緒にしてって書いておいたし、そんな事しそうにない性格の両親よ?! お父様もお母様も、どういう事かしら?! クロちゃんとお花ちゃんに頭カジカジしてもらうわよ?!

「父さん達を責めないで欲しい」

 私の心情を察したのか、カインが両親を庇……。あら? 父さん達? おじさん達じゃなく?

「ああ、そうだな。順を追って話す」

 私の戸惑いに気づいたのね。苦笑した彼は説明する。

 私を意識し始めた頃から遡って。

 話の序盤には、もうビックリ。まさか私が前世を夢に見て、自己研鑽に集中し始めた頃にはカインは私を……その、女性として意識し始めた……やだ!

「だけどお前はもう、俺には興味をなくしていたから言えなかったんだ」

 苦笑するカインにはわるいけれど、目茶苦茶興味あったわよ!? ただ、その頃にはもうカインへの想いを封印してしまったのも確かね。

「それでもミルティアが成人を迎えた日、告白するつもりだったんだ……」

 プレゼントも用意してくれていたなんて! しかも告白付き! 知っていたら一日くらい、出発をずらしたのに……残念!

「冒険者になったのは、ミルティアを探す為だった。ミルティアに釣り合う男になろうと行動していたら、剣聖と呼ばれるくらいには強くなっていた。結局お前の足元にも及ばなかったんだが」

 カインが再び苦笑い。

 そ、そうね。確かに私、強くなったもの。

 それでもカインは私をずっとす……す、す、す、す、好きって……あら?

 もしかして私達、巷で流行りの両片想いってやつだったのかしら? 何だか足元がふわふわする。これが夢見心地というやつ?

 この後、カインがお城で元王太子に謁見した話になるのだけれど、異母兄や元仲間達とのやりとりには胸が痛んだわ。

 カインを陥れた人間達は制裁を受けている。公爵家も二段階降格となって伯爵になった。カインの父親が再び当主になったものの、誰も後継になりたがらないようだから断絶は見えている。

 そもそもの諸悪の根源たるカインの父親も社会的に制裁を受けた。

 とは言っても私的には業腹よ! あの元仲間達も砂埃まみれじゃなく、追加で坊主にでもしてやれば良かった! カインの父親には、今からツルッ禿げの呪いでもかけてやろうかしら!

「それで、その……父親も含めて戸籍上の家族とは縁を切って……ミルティアの両親の養子に入ったんだ」

 凛々しい顔がほんのり赤くなる。なんて色っぽ可愛い……って、待って?!

「……えぇ?!」

 やだ、お間抜けな声が出ちゃったわ。

 けれど内面が甘々な彼には、絶対できないと思っていたんですもの! 予想外の事態に、理解が出遅れたわ! どんな心境の変化があったっていうの?!

 更に詳しく話を聞いて、驚きの連続!

 元死の森で別れてから五年間、カインはひたすら私を探してくれていた。

 私が悲観していたような、カインが愛する誰かを見つけて一筋だったのは、あながち間違ってはいない。けれどカインのあ、あ、愛する……つまり五年間、私一筋だったって事。

「ミルティア以外の誰かなんて、考えた事もない。むしろお前は? きっと今も俺はミルティアより弱い。そんな俺の事なんて忘れて、他の誰かを愛しているんじゃないのか? 俺にとってお前を探す五年間は、長いようで短かった。でもミルティアは違うだろう?」

 やだ! カインが捨てられた子犬みたいにへニョンとうつむいた! からの、私の顔を窺う寂しそうな瞳!

 萌えに震えながらわが身を振り返れば……マズイ、傷心にかこつけて世の男達を物色……。

「ふ、ふふふ?」
「ミルティア? 本当の事を教えて?」

 思わずどう誤魔化そうかと笑ってみれば、甘えるような口調になるカイン。

 私を見つめる真剣だけれど陶酔したような青い瞳の中に、何故か危険な色も混じっている気がするわ。

 私の中の動物的直感が警告をビンビンと告げる。

「もちろんこの五年間、いえ、辺境にいた時からカインを想っていたわ!」 

 行動はともかく、結局収穫はなかったし、嘘じゃな……。

「良かった!」

 パッとカインが顔を明るくする。

「できればミルティアには、ずっと自由でいてもらいたかったんだ。念の為に用意しておいた檻や首輪は捨て、いや、片づけておく」

 檻? 首輪? カインは動物を飼いたかったのかしら? もしかして小動物を餌に、私を引き止めようとしていた? 私が動物好きなの知っているもの。

 それよりも、よ。

「カインは私を恨んでいないの? たくさんお節介を焼いて、何より……貴方を深く傷つけたわ」
「手紙を読んで、お前がずっと俺からの見返りを求めずに、俺の為に色々なものを手離していたト気づいた。ずっと、もう長い間俺の為だけに行動してくれていたんだ。なのに俺は無い物ねだりをして駄々をこねる、ガキでしかなかった。お前を恨む気持ちもないし、そんな資格だって俺には無い」

 私が一番恐れていた事が、呆気なく解消する。

 カインがあの手紙を読んだお陰ね。勝手にカインに手紙を見せた両親を怒れなくなってしまったわ。