「これよりミルティア捕獲大作戦を決行する!!!! ただし傷つける事は許さん!!!! 協力者には金一封!!!! 捕まえた者には望むものを与える!!!! 者共、かかれー!!!!」
「「「「おおう!!!!」」」」

 ドン、と太鼓の音がなった途端、下からは意志疎通の取れた掛け声が。と同時に、突風が私と竜達を襲ってきたんですけど?!

 お父様?! 何なの、ミルティア捕獲大作戦て?!

「がうがう!」
「え、ちょっ、何?!」

 しかもクロちゃんが警告の鳴き声を出したように、ただの風じゃないわ! 領民一丸となって、各々風魔法の角度を調整して合体させた特大の竜巻じゃない!

 うちの領民てば、どんな戦闘民族なの?!

「え、冷たい?!」
「ぷぎゃっ」

 ミニお花ちゃんの可愛らしいお口に、魔力の高まり!?

「やだ! 待って、お花ちゃん!」

 慌てて両手でお花ちゃんの上顎と下顎を閉じる。

「がう!」

 クロちゃんも、ちょっ、待てよ、とばかりにお花ちゃんに制止の鳴き声。

 何とかを私とクロちゃんでお花ちゃんを止めたものの、あっぶな!? 焦土と化してもおかしくなかったわよ?!

 氷の魔法の得意な領民が、竜巻の真ん中に冷気を発生させたせいで気温が下がったの。意図的に竜巻の角度を調整しているから、合わせ技で下降気流の威力が増す。

 何事!? この領民達の一致団結ぶりは?! クロちゃんの体が地面の方へ流されちゃう!?

 とはいえ下手に今、クロちゃんの巨体で抵抗すれば、領民が怪我しちゃうわ!

 更に! ご丁寧に風圧だけでぶっ飛びそうな、領の未来を担う小さな子供達が前衛組に入っているって、どういうつもり!? 攻撃する側が自分達の子供を人質に取るなんて、意味不明よ!

「がうがう····きゅい!」

 クロちゃんも子孫達を傷つけたくないって判断したのね。ポン、とミニサイズになったわ。

「わぁ!」
「可愛い!」
「俺も抱っこする!」

 そうしたら子供達ってば、口々に褒め称えるじゃない!? こんな時なのに、ドヤ顔しそう!

 当のクロちゃんなんて、わざと無害な光るだけのキラキラ振り撒いたわ。嬉しかったのね。

 だけどそれは一瞬のこと。お花ちゃんの尻尾をパクッと咥えたかと思ったら、私の影に逃げこんだわ。

「うわぁ、金ぴかの竜巻ー!」
「すっげー!」
「私もやってみたい!」

 遅れて子供達の歓声が上がる。いくら辺境領でも、もうちょっと危機感持ちなさい?!

「もう、何なの?!」

 上空に放り出された私は、すぐに風と火の魔法を使う。一瞬で無害な風に変えてから着地する。

 と、思ったら……。

「「「「「せーの!」」」」」

 今度は赤ん坊から幼児までを抱えたお母さん組の出番みたい。皆で一丸となって土魔法。

 ドーンと落とし穴を掘ってくれちゃった?! 落下地点まで計算されていた!?

 ぐぬぬぬ。女子供を使った巧妙な心理戦には恐れいるわ! かなり深い落とし穴ね!

「はっ?!」

 こんな時こそ、どこぞのヒロインもびっくりの「きゃあああああ!!」をお見舞いするタイミングだったんじゃない?! 思わず間抜けな声を上げても後の祭りだったわ!

 一瞬、転移してやり直そうかと思ったものの、もしやこれも余興の一つ?

 そう思い直した私は、そのまま重力操作だけをする。空中をふわふわと漂いながら、背中から着地する格好で素直にゆっくりと落ちていってあげたの。

 余興のやり直しは、興ざめの元。

 上を見上げつつ、風魔法で舞い落ちそうな土埃を巻き上げて、穴の外に出しましょうか。

 そう思って風を吹き上げた時よ。

 とっても綺麗な色とりどりの花々や花弁が下から舞ったのは。真っ青な空に彩りを添える幻想的な光景。

「……綺麗」

 予想だにしない光景に、思わず見入ってしまう。

 もう少しで地面に着くけれど、この光景を寝転がったまま、暫く楽しみましょうか。

 そう思った時よ。

「それは、用意した甲斐があったな」

 懐かしい声と共に、逞しい腕が私を抱きとめる。世の乙女達の憧れるお姫様抱っこ。

 私をのぞきこむお顔は、記憶よりも渋さと少し甘くなったように感じる素敵なご尊顔。

 さらさらストレートな青銀の髪は、あの時と違って切り揃えているのね。

「………………カイン?」

 あまりに予想外な現実に、思考停止。五年間口にしなかった名前だけを、ただただ呆然と呟く。

「ああ。やっと見つけた。俺の愛しい人」

 うっすらと涙を浮かべ、蕩けるように微笑むカイン。

 彼はこの五年という時間を、きっと有意義に過ごしたのね。五年前の別れ際のような、くすんだ瞳ではもうなかった。とっても綺麗な……深く澄んだ青。

「ずっと探していた。会いたかった」

 一度私を降ろしたカインは、私を強く抱きしめてそう告げた。

 もう冒険者を止めたかもしれないと思っていたけれど、鍛えた筋肉は衰えていないのね。

「カイン? まるで愛の告白みたいね。私、都合の良い夢でも見ているのかしら?」

 現実味のない現実に、何だかふわふわとした感覚になるのは何故かしら?

 それを聞いたカインは、両手を私の肩に添えて少しだけ体を離す。

「ミルティア、夢にしないでくれ。ちゃんと俺の言葉を聞いて欲しい」

 とても真剣な眼差しに、大人しく頷いた。