「だから心配だ。お母さんと俺はさ、善巳が思っている以上におまえを愛してるんだから」

 愛してる。

 父さんの口からそんな言葉がさらっと飛び出たから、ちょっとたじろいでしまった。
 思わぬ告白に、背中のあたりがたまらなくムズムズする。

 リアクションに困っている僕を尻目に、父さんは、なおも言った。

「お母さんが毎日一生懸命料理をつくってるのは、俺なんかより、善巳のためって思いのほうが強いんだよ。
 俺が働いてるのだって、どっちかというとお母さんより、善巳のためだしな。
 おまえはさ、まあ言うなれば……俺たち夫婦ががんばって生きるための原動力なんだ」

「え……、ちょっと重いな、それ」

 なんとなく照れくさくて、茶化す返しをしてしまった。

「そうか。重いか」

 父さんはコントみたいにおおげさに、カクッとうなだれた。

「じゃ忘れてくれよ、いまの発言は」

「なにそれ。聞いたからには忘れられるわけないじゃん」

 僕たちは一卵性双生児(いちらんせいそうせいじ)のようにそっくりな目を合わせ、弱々しく笑い合った。

 父さんの目尻の笑いじわが、ぐっと深まっていく。

 僕は、父さんと母さんを愛しているんだろうか。

 自問してみたけど、わからなかった。

 そもそも愛ってなんなのか、僕はまだ理解できていないのかもしれない。

 好きの最上級が愛。単純にそう決めつけていたけど、たぶんそれだけじゃないんだろう。

「大丈夫だから」

 僕は、父さんに言った。

「俺、ようすがおかしく見えるかもしれないけど、いまは気にせずほっといて。
 そうしてくれるとありがたいんだけど。いつか……話せる日が来ると思うから」

 うん。うん。
 父さんはじぶんを納得させるようにうなずき、僕の肩にポンポンと二回手を置いた。