夕食はバーベキューバイキングで、海に面した、だだっぴろいテラスで食べた。

 太陽が西の水平線に向かって傾いているさなかで、夕陽を照りかえし、海は神々しい金色に輝いていた。

 チヒロはカウンターに並んでいる食材のなかに、40センチ大の青い魚があるのを見て目を白黒させていた。
 たしかに食べても平気なのか、まずくはないのか、不安になる色味をしている。

 給仕(きゅうじ)の人の話では、味はクセのない白身魚で、刺身やバター焼きにするとおいしいらしい。
 試しにバター焼きをオーダーしたら、けっこうイケる味だった。

 テラスのまわりにはいくつもかがり火が()かれていて、南国ムードをいっそう高めている。

 食事のあと、浜辺へ行ってみた。

 すっかり陽が落ちたビーチの入口にはひときわ大きなかがり火が燃え、ダイナミックな炎を踊らせている。

 海面は空との境界がわからないほど黒々していて、耳を打つ波音だけがその存在を教えていた。

 砂浜をすこし歩いていくと、かがり火の灯りもほとんど届かなくなった。でも真っ暗にはならない。

 上を見あげてみれば、夜空いっぱいにダイヤモンドをくだき散らしたような、億兆もの星がきらめいているのだ。

 これほどの星月夜(ほしづきよ)を体感したのははじめてで、圧巻の美しさと迫力に、二の腕がそっと粟立(あわだ)った。

 新月が近いのか、切り落とした爪より細い月が、夜の(とばり)にひっそり貼りついている。

「すごい。プラネタリウムみたい。こんなにたくさんの星をなまで見たのははじめて。怖いくらい……」

 すぐ隣で、チヒロが恍惚(こうこつ)としたため息を漏らした。

「うん、俺も……。なんかずっと見てると、夜空に吸いこまれていきそうな気がするよ」

 ねえ?──とチヒロがやわらかく語尾をあげて言った。

「太古の人たちは、夜空に輝く星を見てどう思ったのかな。宇宙とか地球とかの概念(がいねん)がなかった時代。
 空が暗くなると頭上に光の粒があらわれたら……。なんだろうって思ったはずよね。ふしぎだし、怖ろしかったと思うわ。
 ヨシくんは……夜空に光るキラキラしたものを見たときのこと、覚えてる? 星をどう認識したの?」

「あー。じつはうちの父親は天文ファンで……俺が小学校にあがる前から、かなり本格的な天体望遠鏡で、月とか土星とか星雲なんかをいっしょに観測してたんだ。
 けど父親の教えかたに熱が入り過ぎちゃって、俺がついていけなくなったの。
 俺は早々に挫折(ざせつ)したけど、けっこう早い段階から宇宙の基礎的なことはわかってたと思うよ」

「そうなの? じゃあ、しぜんと科学的な知識がそなわっていったのね」

 チヒロは、ひとり納得したようにうなづいた。