予約した6階建ての大型ホテルはウエブサイトの写真のとおり、青空とまわりの緑に映える真っ白な外観をしていた。
ホテルのスタッフの人はみんなボタニカル(植物)柄のアロハシャツを着ていて、ピンク系、グリーン系、ブルー系とカラーが分かれている。
若輩者の僕にもていねいな物腰で応対してくれるので、ピンと張っていた気がじょじょにほどけていった。
ブルー系シャツのお兄さんに案内されて入ったのは、5階の客室だった。
シングルベッド2台とチェア2脚にテーブル、チェストが置いてあり、ダークブラウンの落ち着いた色合いでまとまっている。
生成り色の壁に描かれた琉球風の花絵柄が、いかにも沖縄っぽかった。
予想以上に高級感のある部屋の雰囲気に、また緊張が高まってしまう。
スタッフの人が退出したとたん、チヒロは、
「すっごい、すてきなお部屋! あ、ヨシくん、見て! 海!」
待ちきれないという感じで、バルコニーがせりだす窓へ走り寄った。
勢いのまま閉まった窓ガラスを“すいっ”とすり抜け、格子の手すりでかこわれたバルコニーへ飛び出て行く。
むじゃきに喜ぶチヒロの姿にしぜんと笑いが漏れ、窓を開けて、僕もバルコニーへ出た。
眼前に広がる眺めは白い砂浜とくっきり二色に分かれた海で、波打ちぎわから300メートルくらいは澄んだ水色をしているけれど、沖あいは群青に近い色をたたえている。
「うわぁ。ここからの海もきれいね」
きらきらする子どもの目をして、チヒロが言った。
「この海の青、宮古ブルーって呼ばれてるんでしょう。ずっと見ていても飽きないね。も、ため息がでっぱなし。うれしー」
チヒロの素のはしゃぎっぶりを見られて、僕は大満足だった。
やっぱり大正解だ。来てよかった。
「このあとどうする? チヒロ、疲れてない? 部屋でちょっと休む?」
宮古島に着いてから、チヒロはまだ睡魔に襲われていない。
「部屋で休むなんてもったいない。海! ビーチに行こ、ヨシくん!」
はずんだチヒロの声を合図に、僕は超特急で準備に取りかかった。
Tシャツはそのまま。海パンを履いた上に短パンをかさね、タオルやスマホや少額のお金やカードキーをビニールバッグに詰めこんだ。
なにかが始まる。
確実に楽しい、胸がバクバクするなにかが──。
テンションが高まっているチヒロを見ていると、僕の気分もぐんぐんあがっていった。
・
・
・
・
・
ビーチへの近道であるホテルの裏口から外へ出た。
南国の植物がふっくら生い茂り、木漏れ日が光る石畳の小道をすこし下りていくと、その先にはあらたな景色が待っていた。
砂浜が太陽に照らされて純白に輝き、プールの水のように澄みきった海が広がっている。
岬から眺めた海とはまた違って、ここではやさしい波が白い渚を洗っていた。
砂浜入口の右側には大きな東屋風の壁のない建物があり、木調のカウンターとスツールが置かれている。
ドリンクバーのようだ。
左側にはパラソルやチェアをレンタルしたり、マリンアクティビティを受付するかやぶき屋根の小屋が建っている。
右手側の海には、細い桟橋が架けられていた。
そっちはアクティビティエリアのようで、激しい水しぶきと爆音を立てるジェットスキーがお椀形のチューブを引っぱり、乗客が「キャーキャーワーワー」エキサイトした声をあげている。
左手側のほうは、真っ白な砂浜が延々とつづいていた。
8月の後半だからか、予想していたほど人は多くなかった。
僕とチヒロはどちらからともなく、左手側のしずかな砂浜のほうへ歩いていった。
真上から太陽が照りつけている。でも攻撃的に焼かれるような熱さじゃない。
空気もべたついてない。さらりとする、気持ちいい潮風が吹き抜けていく。
海に来たときに感じるあの磯臭さもまったくなくて、ここは僕がこれまで見てきた海とは別物だった。
チヒロも楽園のようなこの雰囲気に、しみじみ感じ入っているようだ。
言葉を交わすこともなくゆっくり進んでいくと、前方から目を引くグループが歩いてきた。
僕たちよりちょっと年上そうな女子4人組で、楽しげに語り合っている。
腰にひらひらなびく布を巻いている人もいるけど、みんな大胆なビキニ姿を披露している。
スクール水着の比じゃない、ハンパない肌の露出度に、僕の意思に反して男の性が反応してしまった。
鼓動を“かってに”暴れさせ、顔もぽっぽと熱くするのだ。
マズイ、とあわてた最悪のタイミングで、前を歩いていたチヒロが、ゆったりした動きでふり返った。
上半身を後ろへひねり、ゆるゆると歩みをつづけながら、うつろな目で僕を見やっている。
浮気現場を目撃されたみたいにあせり、強制的に海側へ顔をねじ向けた。
女子グループを意識していると邪推されては困るので、ぎくしゃくした挙動にならないよう気をつけながら、ひたすら海を見つめて波打ちぎわに沿って歩いた。
女子グループと擦れ違い、華やかな声がうしろへ移って遠ざかっていく。
ほうっ、と安堵の息が、僕の口から漏れでた。
ホテルから200メートルくらい離れたところまで来ると、遊泳エリアのブイからもはずれ、まったく人影がなくなった。
ホテルのスタッフの人はみんなボタニカル(植物)柄のアロハシャツを着ていて、ピンク系、グリーン系、ブルー系とカラーが分かれている。
若輩者の僕にもていねいな物腰で応対してくれるので、ピンと張っていた気がじょじょにほどけていった。
ブルー系シャツのお兄さんに案内されて入ったのは、5階の客室だった。
シングルベッド2台とチェア2脚にテーブル、チェストが置いてあり、ダークブラウンの落ち着いた色合いでまとまっている。
生成り色の壁に描かれた琉球風の花絵柄が、いかにも沖縄っぽかった。
予想以上に高級感のある部屋の雰囲気に、また緊張が高まってしまう。
スタッフの人が退出したとたん、チヒロは、
「すっごい、すてきなお部屋! あ、ヨシくん、見て! 海!」
待ちきれないという感じで、バルコニーがせりだす窓へ走り寄った。
勢いのまま閉まった窓ガラスを“すいっ”とすり抜け、格子の手すりでかこわれたバルコニーへ飛び出て行く。
むじゃきに喜ぶチヒロの姿にしぜんと笑いが漏れ、窓を開けて、僕もバルコニーへ出た。
眼前に広がる眺めは白い砂浜とくっきり二色に分かれた海で、波打ちぎわから300メートルくらいは澄んだ水色をしているけれど、沖あいは群青に近い色をたたえている。
「うわぁ。ここからの海もきれいね」
きらきらする子どもの目をして、チヒロが言った。
「この海の青、宮古ブルーって呼ばれてるんでしょう。ずっと見ていても飽きないね。も、ため息がでっぱなし。うれしー」
チヒロの素のはしゃぎっぶりを見られて、僕は大満足だった。
やっぱり大正解だ。来てよかった。
「このあとどうする? チヒロ、疲れてない? 部屋でちょっと休む?」
宮古島に着いてから、チヒロはまだ睡魔に襲われていない。
「部屋で休むなんてもったいない。海! ビーチに行こ、ヨシくん!」
はずんだチヒロの声を合図に、僕は超特急で準備に取りかかった。
Tシャツはそのまま。海パンを履いた上に短パンをかさね、タオルやスマホや少額のお金やカードキーをビニールバッグに詰めこんだ。
なにかが始まる。
確実に楽しい、胸がバクバクするなにかが──。
テンションが高まっているチヒロを見ていると、僕の気分もぐんぐんあがっていった。
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ビーチへの近道であるホテルの裏口から外へ出た。
南国の植物がふっくら生い茂り、木漏れ日が光る石畳の小道をすこし下りていくと、その先にはあらたな景色が待っていた。
砂浜が太陽に照らされて純白に輝き、プールの水のように澄みきった海が広がっている。
岬から眺めた海とはまた違って、ここではやさしい波が白い渚を洗っていた。
砂浜入口の右側には大きな東屋風の壁のない建物があり、木調のカウンターとスツールが置かれている。
ドリンクバーのようだ。
左側にはパラソルやチェアをレンタルしたり、マリンアクティビティを受付するかやぶき屋根の小屋が建っている。
右手側の海には、細い桟橋が架けられていた。
そっちはアクティビティエリアのようで、激しい水しぶきと爆音を立てるジェットスキーがお椀形のチューブを引っぱり、乗客が「キャーキャーワーワー」エキサイトした声をあげている。
左手側のほうは、真っ白な砂浜が延々とつづいていた。
8月の後半だからか、予想していたほど人は多くなかった。
僕とチヒロはどちらからともなく、左手側のしずかな砂浜のほうへ歩いていった。
真上から太陽が照りつけている。でも攻撃的に焼かれるような熱さじゃない。
空気もべたついてない。さらりとする、気持ちいい潮風が吹き抜けていく。
海に来たときに感じるあの磯臭さもまったくなくて、ここは僕がこれまで見てきた海とは別物だった。
チヒロも楽園のようなこの雰囲気に、しみじみ感じ入っているようだ。
言葉を交わすこともなくゆっくり進んでいくと、前方から目を引くグループが歩いてきた。
僕たちよりちょっと年上そうな女子4人組で、楽しげに語り合っている。
腰にひらひらなびく布を巻いている人もいるけど、みんな大胆なビキニ姿を披露している。
スクール水着の比じゃない、ハンパない肌の露出度に、僕の意思に反して男の性が反応してしまった。
鼓動を“かってに”暴れさせ、顔もぽっぽと熱くするのだ。
マズイ、とあわてた最悪のタイミングで、前を歩いていたチヒロが、ゆったりした動きでふり返った。
上半身を後ろへひねり、ゆるゆると歩みをつづけながら、うつろな目で僕を見やっている。
浮気現場を目撃されたみたいにあせり、強制的に海側へ顔をねじ向けた。
女子グループを意識していると邪推されては困るので、ぎくしゃくした挙動にならないよう気をつけながら、ひたすら海を見つめて波打ちぎわに沿って歩いた。
女子グループと擦れ違い、華やかな声がうしろへ移って遠ざかっていく。
ほうっ、と安堵の息が、僕の口から漏れでた。
ホテルから200メートルくらい離れたところまで来ると、遊泳エリアのブイからもはずれ、まったく人影がなくなった。