地上の楽園って言葉がぴったりな、あの美しい島の景色をチヒロにじかに見せたい。
笑顔が止まらないチヒロを見てみたい。
それを叶えるための方便として、
「うん。いまのところ、推薦でいくつもりだよ」
チヒロが納得するような、前向きな意思を伝えた。
「バイトしてたって学校から出された課題はやるよ、もちろん。それ以外にもこれまでの復習や、小論文と面接対策もね」
それでもチヒロは、「えー、でも……」と渋り、
「無理をして欲しくないの、ヨシくんに。テスト休みのときもシーパラダイスに連れて行ってくれたり、映画館も……プラチナシートだなんて、贅沢をさせてくれたでしょう。
沖縄へ行くためにアルバイトするなんて……。それは大学生になってからでもいいんじゃないかなって、わたしは思うけど」
「無理なんてしてないよ」
僕は首がちぎれそうな勢いで頭をふった。
「俺がチヒロと行きたいんだ。今年の夏にどうしても! お願いだから行こう。ねっ!」
両手を合わせてかしこまり、真剣に請い願った。
するとチヒロはかつてないほどの難題に直面したような顔になり、すっと背筋を伸ばしてまつ毛をふせた。
天の声に耳をかたむけてでもいるように、黙りこくっている。
審判を待つ僕の心臓が、どっくんどっくん、高鳴った。
やがて僕を見やって真顔をくずすと、チヒロはやわらかな微笑みを見せた。
「わかった。行こう、ヨシくん。宮古島に連れてって」
* * *
条件に合うアルバイトは、求人サイトですぐに見つかった。引っ越し作業のアシスタントだ。
高校生可。短期勤務可。日払い可。しかも日給8千円という願ってもない好条件だった。
勤務時間は基本8時から17時半までだけど、一現場当たりの実働は5~7.5時間で、5時間以内に作業が終了した場合でも日給は保証してくれるという。20日間働けば16万円の稼ぎになる。
収入の当たりがついたつぎは、航空券と宿泊場所の手配だった。
僕の予想をはるかに超えて、宮古島にはホテルや旅館、民宿やヴィラといった宿泊施設が400軒以上あるとわかった。
とはいえ8月は夏休みシーズン中だから、人気があるリゾートホテルやヴィラはすでに予約で埋まっている。
それでも旅行予約サイトをかたっぱしから閲覧しまくったところ、8月の後半に2泊3日朝夕食付きの宿泊予約と航空券を押えることができた。
ホテルは宮古島空港から車で15分。
築年数は古めだが南国リゾートムードたっぷりのおしゃれな造りで、ホテルの前には白い砂のプライベートビーチがある。
旅行代金がひとり分で済むとはいえ、航空券とホテル代を合わせると18万円弱になり、正直それはかなり痛い出費だった。
もっとカジュアルなホテルや民宿なんかにすれば旅費をおさえられるのだけど、チヒロと行くはじめての旅行なのだ。
ここで奮発しないでどうする、と気張らずにはいられない、男の見栄と意地があった。
バイトと旅行の目途が立ったものの、クリアしなければならない問題がまだ横たわっていた。
往復の航空券代5万5千円を3日以内に支払わなければ、予約がキャンセルされてしまうのだ。
チヒロには「貯金がある」なんて胸を張ったが、テスト休み中のデートでけっこう派手にお金を使ったので、ほんとうは2万円あまりしか残っていなかった。
この窮地を救ってくれるのは、やっぱりあの女神しか思い当たらなかった。
* * *
父さんが帰ってくる前、夕飯のしたくをしている母さんに、
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
声をかけ、ダイニングテーブルについてもらった。チヒロは僕の部屋で青春ものの映画を視聴中だ。
交渉をスムーズに進める道具として、まずは期末テストの答案用紙をテーブルに広げた。
かつてない高得点が並ぶ答案用紙を目にした母さんは、瞳をひとまわり大きくし、
「あらーっ」
とうれしさと驚きをミックスさせた顔で、まつ毛をしばたたかせた。
「あのさ、8月の後半にクラスの男3人で宮古島に行こうって話がでて、盛りあがってるんだけど……」
旅費はこれから引っ越し会社でアルバイトして稼ぐつもり。
だからまずは、バイトと旅行を認めて欲しい。
問題は2日以内に航空券代を銀行振りこみしなくちゃいけないこと。
その分が足りない。
2学期も勉強をがんばるから、とりあえずの不足分を貸してもらいたい。
そういった趣旨を母さんにたたみかけて話し、頼みこんだ。
笑顔が止まらないチヒロを見てみたい。
それを叶えるための方便として、
「うん。いまのところ、推薦でいくつもりだよ」
チヒロが納得するような、前向きな意思を伝えた。
「バイトしてたって学校から出された課題はやるよ、もちろん。それ以外にもこれまでの復習や、小論文と面接対策もね」
それでもチヒロは、「えー、でも……」と渋り、
「無理をして欲しくないの、ヨシくんに。テスト休みのときもシーパラダイスに連れて行ってくれたり、映画館も……プラチナシートだなんて、贅沢をさせてくれたでしょう。
沖縄へ行くためにアルバイトするなんて……。それは大学生になってからでもいいんじゃないかなって、わたしは思うけど」
「無理なんてしてないよ」
僕は首がちぎれそうな勢いで頭をふった。
「俺がチヒロと行きたいんだ。今年の夏にどうしても! お願いだから行こう。ねっ!」
両手を合わせてかしこまり、真剣に請い願った。
するとチヒロはかつてないほどの難題に直面したような顔になり、すっと背筋を伸ばしてまつ毛をふせた。
天の声に耳をかたむけてでもいるように、黙りこくっている。
審判を待つ僕の心臓が、どっくんどっくん、高鳴った。
やがて僕を見やって真顔をくずすと、チヒロはやわらかな微笑みを見せた。
「わかった。行こう、ヨシくん。宮古島に連れてって」
* * *
条件に合うアルバイトは、求人サイトですぐに見つかった。引っ越し作業のアシスタントだ。
高校生可。短期勤務可。日払い可。しかも日給8千円という願ってもない好条件だった。
勤務時間は基本8時から17時半までだけど、一現場当たりの実働は5~7.5時間で、5時間以内に作業が終了した場合でも日給は保証してくれるという。20日間働けば16万円の稼ぎになる。
収入の当たりがついたつぎは、航空券と宿泊場所の手配だった。
僕の予想をはるかに超えて、宮古島にはホテルや旅館、民宿やヴィラといった宿泊施設が400軒以上あるとわかった。
とはいえ8月は夏休みシーズン中だから、人気があるリゾートホテルやヴィラはすでに予約で埋まっている。
それでも旅行予約サイトをかたっぱしから閲覧しまくったところ、8月の後半に2泊3日朝夕食付きの宿泊予約と航空券を押えることができた。
ホテルは宮古島空港から車で15分。
築年数は古めだが南国リゾートムードたっぷりのおしゃれな造りで、ホテルの前には白い砂のプライベートビーチがある。
旅行代金がひとり分で済むとはいえ、航空券とホテル代を合わせると18万円弱になり、正直それはかなり痛い出費だった。
もっとカジュアルなホテルや民宿なんかにすれば旅費をおさえられるのだけど、チヒロと行くはじめての旅行なのだ。
ここで奮発しないでどうする、と気張らずにはいられない、男の見栄と意地があった。
バイトと旅行の目途が立ったものの、クリアしなければならない問題がまだ横たわっていた。
往復の航空券代5万5千円を3日以内に支払わなければ、予約がキャンセルされてしまうのだ。
チヒロには「貯金がある」なんて胸を張ったが、テスト休み中のデートでけっこう派手にお金を使ったので、ほんとうは2万円あまりしか残っていなかった。
この窮地を救ってくれるのは、やっぱりあの女神しか思い当たらなかった。
* * *
父さんが帰ってくる前、夕飯のしたくをしている母さんに、
「ちょっと話があるんだけど、いい?」
声をかけ、ダイニングテーブルについてもらった。チヒロは僕の部屋で青春ものの映画を視聴中だ。
交渉をスムーズに進める道具として、まずは期末テストの答案用紙をテーブルに広げた。
かつてない高得点が並ぶ答案用紙を目にした母さんは、瞳をひとまわり大きくし、
「あらーっ」
とうれしさと驚きをミックスさせた顔で、まつ毛をしばたたかせた。
「あのさ、8月の後半にクラスの男3人で宮古島に行こうって話がでて、盛りあがってるんだけど……」
旅費はこれから引っ越し会社でアルバイトして稼ぐつもり。
だからまずは、バイトと旅行を認めて欲しい。
問題は2日以内に航空券代を銀行振りこみしなくちゃいけないこと。
その分が足りない。
2学期も勉強をがんばるから、とりあえずの不足分を貸してもらいたい。
そういった趣旨を母さんにたたみかけて話し、頼みこんだ。