「鴨生田。92てーん!」
英語の原田先生が、ワインレッドに塗りたくったくちびるを大きく開き、僕の点数を読みあげた。
おばさんの割には甘い響きのハイトーンボイスが、クラスの空気をざわつかせる。
教室のうしろに立っているチヒロも、びっくり顔だった。
先生はおおげさに目を見張り、巻き舌で、
「Great! You did it!」
と称賛し、答案用紙を僕に渡した。
ヒューッ!
誰が鳴らしたのか甲高い指笛が鳴り、「うそだろ」「ガモらしくねぇー」「やめてー。天変地異が起きるー」なんて失礼な声も次から次へとあがった。
採点を終えた期末テストの答案用紙が、続々ともどってきていた。
努力が実を結ぶとはこのことで、僕のテスト結果はじぶんでも驚くほどかんばしい結果を生んでいた。
大の苦手な数学Ⅰは70点だけど──それでも以前の僕からしたら上出来だ──、そのほかは80、90点台。
国語にいたってはなんと98点という快挙を成し遂げた。
もともと国語だけは、昔からまあまあできるほうだったのだ。僕がちいさいころ、母さんがたくさん本を読み聞かせてくれたおかげかもしれない。
「ガモ、どこの大学ねらってるんだっけ」
休み時間に神部がさりげない口調できいてきた。
「いや、決めてないんだけど」
「マジで? 模試はどうすんの」
「受けたほうが……いいんだろうな」