6月に入って2度目の月曜日。
ブルー一色な僕の気分を写し取ったみたいな──。
うっすら濁った水のような色彩の空が、はるか彼方まで広がっている。
そんな天気の放課後のこと。
いくつかの偶然がかさなって、僕はある物を見つけた。
校舎裏のこんもり茂ったツツジの植込みの奥深くに、それは意図してぐっと押しこまれた感じでひそまっていたのだ。
目についた瞬間は、スマホかな、と思った。
ピンク色っぽくて、ひらべったい形をしているようだったから。
でも枝葉が密にからみあったツツジの植込みのなかに苦労して手を差し入れ、ようやっとそれをつかんでみて、違うとわかった。
これ、手帳じゃないか。
淡いピンクのビニール製の表紙で、サイズはスマホよりちょっと大きめ。
なんでこんなところに、こんなものが?
不可解に思いながら、なんとなくいわくありげな代物をしげしげと見つめた。
仮に上から落ちてきたのだとしても、枝と葉が密集しているツツジの植込みの、これほど奥までは入らないだろう。ふつうは。
もしかして、誰かのいたずらとか?
ふっと勘ぐりが働き、正面にかまえる特別教科棟を見あげた。
三階建ての廊下側の窓はどこも閉まっていて、誰かがこっちをモニタリングしているようすはなさそうだ。
いたずらじゃないとすると、落とし物?
それを誰かが拾って、この植込みに突っこんだ? なぜ?
どういうこっちゃと首をひねりながら、とりあえずなかを開いてみた。
やっばり手帳だ。それも、今年の。
カレンダー型式のスケジュール表に、書きかたのお手本のような美文字が記されている。
こ、これは……。
手帳の色といい、きれいな文字といい、所有者はきっと女子……。
そう直感した僕の胸が、
どっくん、
と大きく鳴った。
いいのか、見ちゃって。
でも、なかを確認しないと誰のかわからないし……。
うーーー。どうしよう。
やましさVS.興味深さ。
しばしの激戦のすえ後者に軍配が上がり、良心がうずきつつもパラパラと頁をめくった。
すると、
〈善巳〉
の文字がばっと目に飛びこんだ。
え、俺?
〈善巳〉は僕の名前だ。
鴨生田 善巳。
校内でのあだ名は〈ガモ〉。
名字の頭のふたつを取っただけの、なんのひねりもない〈ガモ〉。
あだ名のことはともかく……、まさか〈善巳〉って……俺のことじゃないよな。
もしかして、ディスられてるとか?
嫌な予感にとらわれながらも、つきとめずにはいられない心理に追いこまれ、頁をもどした。
その頁はカレンダー形式ではなく、各日付けごとに横罫線で仕切られた日記形式になっていた。
そこに、
『善巳くんがグラウンドでランニング中。窓ぎわの席がクジ引きで当たってすごく幸せ。3組の体育の授業がこれから楽しみ♪ずっと見ていたいけど、そういうわけにもいかないよね』
せまい欄内に、こまかいけどきれいな字でそう書いてあった。
先月の5月22日。水曜日の記述だ。
え? なんだこれ?
プチパニックに襲われ、脳内がたちまちワサワサしだす。
水曜日はたしかに僕のクラスの3組と隣の4組とで、合同の体育授業が行われている。それはそうだけど……。
この手帳に書かれている〈善巳〉って、俺のこと?
俺に隠れファンがいたってこと?
雑魚男子にくくられてる、この俺に?
じぶんで言うのも悔しいが、スター性皆無の、平凡きわまる俺に?
まさかぁ。
ないない。