(おごそ)かな光を放つ西の空に目を向け、あらためて彼女に誓う思いで、うん、と深くうなずいた。

 正面に向き直り、左ブレーキを握る。

 イグニッションをONにして、スイッチを長押しする。

 ボッボッボッボッボッ。

 エンジンの振動がお尻に、手に伝わってくる。

 後方をしっかり確認。

 アクセルグリップを大きく回し、僕はバイクを発進させた。

 夕風が、頬や首や腕をやわらかに撫でていく。

 目にふれる夏の景色がうしろへ流れていくと同時に、時間(とき)も流れていく。
 いまこの瞬間が、たちまち過去になっていく。

 だけど、一生涯忘れるわけがない。

 チヒロといっしょにいた日々を。

 寂しさと後悔を背負(しょ)い、彼女の安寧(あんねい)を祈りながら、僕は制限速度ぎりぎりまでぐんとスピードを上げた。

 きみと過ごした高校生活最後の夏休みは──────明日で終わる。







       【 了 】



 長いお話を最後までお読み下さいまして、ほんとうにありがとうございます
 <(_ _)> by yoshimi chihiro shino