めぐりあうまえから、恋に落ちていた。
 
 きみが可愛(かわい)いのか、
 そうじゃないのかを、知らずに。

 どんな声で話すのか、
 まとっている空気感を、知らずに。

 校内のあちこちで()れちがっていたそうだけど、
 僕のほうは、まったくきみに気づいていなかった。

 なんの印象も残っていなかった。

 それでも好きになった。

 きみの姿、
 そのシルエットさえわからないまま──。

 あとで知ったんだ。

 きみの存在を把握(はあく)するずっとまえから、
 きみと僕の物語は始まっていたんだと。

 プロローグを(つづ)ってくれたのは────

 きみだった。