「薬品の調合は料理と同じだ――と、以前知り合った錬金術師が申しておりました」
「あ、そうなんだ……」
僕らはツリーハウスの中に招かれ、すっごく苦いお茶と格闘している。
この苦いお茶って、わざとなんだろうか。
「あの、本当に調合はできないんですか?」
「ばーちゃんに教えて貰ってないっす?」
僕とアレックスさんが交互に質問すると、魔女さんは俯いたまま肩を震わせた。
「ダメなのじゃ! おばあさまに教わった通りにやっても、成功しないんだもんっ。一度だって調合に成功したことないんだからっ」
「そんな……」
「料理も調合も、同じなのですよ。だから料理がヘタなら――」
「フレドリクさん、今その話はやめましょう。ね?」
「承知いたしました」
真顔で言ってるから、悪気とかなないんだろうけど。
ド天然なんだろうなぁ。
でもフレドリクさんが言う、料理も調合同じだというのなら。
もしかすると解決できるかもしれない。
「魔女さん。材料がどのくらい必要だとか、調合方法とかはご存じなのですよね?」
「あ、当たり前じゃ。おばあさまに教わった薬の調合方法は全部頭に入ってるし、メモもしてある」
「なら教えてください、僕に」
僕が胸を張ってそう言うと、彼女は目を丸くした。
「あ、あんたに!? あんたが調合するっていうの? そう簡単なものじゃないのよっ」
「いえ、たぶん簡単にできます。レンジでチン、ですから」
「なるほど。デュカルトさまのレンチンですね」
「れ、れん、ちん?」
料理と同じなら調理できるはず。
正しい材料と、調合方法がわかれば簡単にね。
「材料はこれで全部? 少ないようだけど」
「あんたが本当に調合できるのか、お試しでひとり分よ」
「あ、そうなんだね。じゃあ――"魔導レンジ"」
「え、魔導?」
ぽんっと現れた半透明の可視化された電子レンジ。ちょっとデフォルメされてるけど。
その中に材料を入れた器を入れ、扉を閉める。
あれを最初に煮込んで、それからあっちを刻んで入れて、それから――と、魔女さんに教えて貰いながら、材料ごとにイメージしていく。
イメージした内容は、電光掲示板のように浮かんだ画面に表示される。
これは僕にしか見えないものらしい。
最後にスタートをピっと。
チーンっと音がして扉が開く。
うわ、なんか紫色の湯気が出てるんですけど。
「うそ。三日三晩、焦げ付かないようにずっとかき混ぜなきゃならんのに……一瞬じゃない」
「はい。このスキルには調理に使った材料の種類や重さ、実際に調理にかかる時間によって魔力を消費します。魔力をあまり消費させたくない場合は、実際にかかる時間と同じだけチンしなきゃならないのですが」
なんせ僕には『無限魔力』がある。
どんなに魔力を消費しようと、枯渇することはない。
「それであの、この毒々しい湯気が出てるこれが……」
「か、貸すのじゃ」
奪い取るように魔女さんがお皿を受け取る。
スプーンで中身を救って、ペロっと舐めた。
「ど、どうですか?」
「同じ……おばあさまの薬と同じじゃ」
「本当に!? じゃ、これを量産してみなさんにっ」
「やったっすね!」
「ありがとうございます、魔女さんっ。これでみなさんを救えますっ」
お礼を言うと、魔女さんはそっぽを向いて頬を赤らめた。
まだフードを被っているから表情までは分からない。
「そうだ、大事なことを忘れていた。あの、薬の材料、譲っていただけますか?」
「別に……いいわよ」
「本当ですか! えっと、お礼は何かいいでしょうか? 普段は食材と物々交換されているようですが」
「そ、そうね! 小麦粉、野菜の苗、くだも、の……」
あれ? なんだか声が小さくなっちゃった。
他に欲しいものでもあ……あぁ。
魔女さんに元気がなくなった理由がわかった。
魔女さんは料理がヘ――苦手だ。
小麦粉があってもパンを焼けないのかもしれない。
野菜を育てても料理ができないのかもしれない。
今までどうしていたんだろう?
そう思った時、ぐうぅぅぅ~っという音が室内に響いた。
その音は僕らの前、魔女さんの方から聞こえる。
「や、やぁ、僕お腹空いたなぁ」
「そ、そうっすね。そういやオレも晩飯まだっす」
「自分もです。こんなこともあろうかと、エンパイヤパイソンの肉を持って来ております」
用意よすぎ!
「食べられるの? 毒とかは?」
「毒は喉にある袋に蓄えられていますので、身の方は問題ありません。脂が少なく、さっぱりとした味わいでございます」
ヘビ肉と同じような感じか。
他にこの家にあった食べても大丈夫なキノコや野草を加え、香草に塩胡椒を乗せてレンチン♪
あと骨で出汁をとったスープもレンチンすれば、ディナーの完成だ。
「うわぁ、凄いっすね。調合だけじゃなく、料理も一瞬っすか」
「ははは。僕のは調理スキルだから、料理として使っていたものなんなんですよ。でもフレドリクさんが、調合も料理も同じだっていうから、もしかしてと思って」
「なるほど。じゃ、いただきますっす」
「はい、どうぞ」
エンパイヤパイソンの肉はチキンステーキみたいだ。
脂が少ないから食べやすい。スープの出汁も、よくでてるなぁ。
臭みをとるためにって魔女さんがくれた香草のおかげで、ニオイもまったく気にならない。
「食事が終わったらすぐに町へ戻りましょう」
「はいっす」
「魔女さん、お礼は必ずします。だから材料を分けていただいてもよろしいですか?」
あれ、どうしたのかな。
返事がないし、固まっている様子。
「も、もしかしてお口にあいませんでしたか!?」
魔女さんは首を左右に振る。
おいしくないわけじゃなさそうだ。じゃ、どうしたんだろう。
よく見ると彼女の肩が震えている。
もしかすると……。
「誰かと食事をするのは、久々ですか?」
そう尋ねると彼女は頷いた。
「そうですか。いいですよね、誰かとこうして食事をするのって。ひとりだと寂しいですもんね」
そう話すと、魔女さんの肩がピクリと動く。
「僕にも経験があるから、わかります。僕もひとりぼっちだったことがありますから」
前世の僕は、孤児だった。
孤児院前に捨てられていたから、親が誰なのかわからない。
施設には同じ境遇の子たちばかりで、中には人間不信に陥ってる子もいた。
だから食事は自分の部屋でっていう子もいて、食堂には数人しかいなかったし、みんな離れた席に座ってたんだよね。
高校を出て就職してからは当然独り暮らしだ。
思えば前世ではずーっとひとりだったなぁ。
今世では父上が屋敷にいる間は、いつも一緒に食事をしてくれていたから嬉しかった。
「誰かと一緒っていうのは、いいですもんね。あ、もしよろしければ、魔女さんも町にお越しください。歓迎しますよ」
時々町に来てくれれば、その時はたくさんご馳走しよう。
料理長が教えてくれたレシピ集に、日持ちするパンもあったはず。
それから、それから――
「ま、町に戻るんじゃろ。早く食べちゃいなさいよ」
「あ、そうだった! アレックスさん、フレドリクさん。急いで食べま……食べ終わってる?」
「うっす!」
「はい」
まだ食べ終えてないの、僕だけじゃん!
「あ、そうなんだ……」
僕らはツリーハウスの中に招かれ、すっごく苦いお茶と格闘している。
この苦いお茶って、わざとなんだろうか。
「あの、本当に調合はできないんですか?」
「ばーちゃんに教えて貰ってないっす?」
僕とアレックスさんが交互に質問すると、魔女さんは俯いたまま肩を震わせた。
「ダメなのじゃ! おばあさまに教わった通りにやっても、成功しないんだもんっ。一度だって調合に成功したことないんだからっ」
「そんな……」
「料理も調合も、同じなのですよ。だから料理がヘタなら――」
「フレドリクさん、今その話はやめましょう。ね?」
「承知いたしました」
真顔で言ってるから、悪気とかなないんだろうけど。
ド天然なんだろうなぁ。
でもフレドリクさんが言う、料理も調合同じだというのなら。
もしかすると解決できるかもしれない。
「魔女さん。材料がどのくらい必要だとか、調合方法とかはご存じなのですよね?」
「あ、当たり前じゃ。おばあさまに教わった薬の調合方法は全部頭に入ってるし、メモもしてある」
「なら教えてください、僕に」
僕が胸を張ってそう言うと、彼女は目を丸くした。
「あ、あんたに!? あんたが調合するっていうの? そう簡単なものじゃないのよっ」
「いえ、たぶん簡単にできます。レンジでチン、ですから」
「なるほど。デュカルトさまのレンチンですね」
「れ、れん、ちん?」
料理と同じなら調理できるはず。
正しい材料と、調合方法がわかれば簡単にね。
「材料はこれで全部? 少ないようだけど」
「あんたが本当に調合できるのか、お試しでひとり分よ」
「あ、そうなんだね。じゃあ――"魔導レンジ"」
「え、魔導?」
ぽんっと現れた半透明の可視化された電子レンジ。ちょっとデフォルメされてるけど。
その中に材料を入れた器を入れ、扉を閉める。
あれを最初に煮込んで、それからあっちを刻んで入れて、それから――と、魔女さんに教えて貰いながら、材料ごとにイメージしていく。
イメージした内容は、電光掲示板のように浮かんだ画面に表示される。
これは僕にしか見えないものらしい。
最後にスタートをピっと。
チーンっと音がして扉が開く。
うわ、なんか紫色の湯気が出てるんですけど。
「うそ。三日三晩、焦げ付かないようにずっとかき混ぜなきゃならんのに……一瞬じゃない」
「はい。このスキルには調理に使った材料の種類や重さ、実際に調理にかかる時間によって魔力を消費します。魔力をあまり消費させたくない場合は、実際にかかる時間と同じだけチンしなきゃならないのですが」
なんせ僕には『無限魔力』がある。
どんなに魔力を消費しようと、枯渇することはない。
「それであの、この毒々しい湯気が出てるこれが……」
「か、貸すのじゃ」
奪い取るように魔女さんがお皿を受け取る。
スプーンで中身を救って、ペロっと舐めた。
「ど、どうですか?」
「同じ……おばあさまの薬と同じじゃ」
「本当に!? じゃ、これを量産してみなさんにっ」
「やったっすね!」
「ありがとうございます、魔女さんっ。これでみなさんを救えますっ」
お礼を言うと、魔女さんはそっぽを向いて頬を赤らめた。
まだフードを被っているから表情までは分からない。
「そうだ、大事なことを忘れていた。あの、薬の材料、譲っていただけますか?」
「別に……いいわよ」
「本当ですか! えっと、お礼は何かいいでしょうか? 普段は食材と物々交換されているようですが」
「そ、そうね! 小麦粉、野菜の苗、くだも、の……」
あれ? なんだか声が小さくなっちゃった。
他に欲しいものでもあ……あぁ。
魔女さんに元気がなくなった理由がわかった。
魔女さんは料理がヘ――苦手だ。
小麦粉があってもパンを焼けないのかもしれない。
野菜を育てても料理ができないのかもしれない。
今までどうしていたんだろう?
そう思った時、ぐうぅぅぅ~っという音が室内に響いた。
その音は僕らの前、魔女さんの方から聞こえる。
「や、やぁ、僕お腹空いたなぁ」
「そ、そうっすね。そういやオレも晩飯まだっす」
「自分もです。こんなこともあろうかと、エンパイヤパイソンの肉を持って来ております」
用意よすぎ!
「食べられるの? 毒とかは?」
「毒は喉にある袋に蓄えられていますので、身の方は問題ありません。脂が少なく、さっぱりとした味わいでございます」
ヘビ肉と同じような感じか。
他にこの家にあった食べても大丈夫なキノコや野草を加え、香草に塩胡椒を乗せてレンチン♪
あと骨で出汁をとったスープもレンチンすれば、ディナーの完成だ。
「うわぁ、凄いっすね。調合だけじゃなく、料理も一瞬っすか」
「ははは。僕のは調理スキルだから、料理として使っていたものなんなんですよ。でもフレドリクさんが、調合も料理も同じだっていうから、もしかしてと思って」
「なるほど。じゃ、いただきますっす」
「はい、どうぞ」
エンパイヤパイソンの肉はチキンステーキみたいだ。
脂が少ないから食べやすい。スープの出汁も、よくでてるなぁ。
臭みをとるためにって魔女さんがくれた香草のおかげで、ニオイもまったく気にならない。
「食事が終わったらすぐに町へ戻りましょう」
「はいっす」
「魔女さん、お礼は必ずします。だから材料を分けていただいてもよろしいですか?」
あれ、どうしたのかな。
返事がないし、固まっている様子。
「も、もしかしてお口にあいませんでしたか!?」
魔女さんは首を左右に振る。
おいしくないわけじゃなさそうだ。じゃ、どうしたんだろう。
よく見ると彼女の肩が震えている。
もしかすると……。
「誰かと食事をするのは、久々ですか?」
そう尋ねると彼女は頷いた。
「そうですか。いいですよね、誰かとこうして食事をするのって。ひとりだと寂しいですもんね」
そう話すと、魔女さんの肩がピクリと動く。
「僕にも経験があるから、わかります。僕もひとりぼっちだったことがありますから」
前世の僕は、孤児だった。
孤児院前に捨てられていたから、親が誰なのかわからない。
施設には同じ境遇の子たちばかりで、中には人間不信に陥ってる子もいた。
だから食事は自分の部屋でっていう子もいて、食堂には数人しかいなかったし、みんな離れた席に座ってたんだよね。
高校を出て就職してからは当然独り暮らしだ。
思えば前世ではずーっとひとりだったなぁ。
今世では父上が屋敷にいる間は、いつも一緒に食事をしてくれていたから嬉しかった。
「誰かと一緒っていうのは、いいですもんね。あ、もしよろしければ、魔女さんも町にお越しください。歓迎しますよ」
時々町に来てくれれば、その時はたくさんご馳走しよう。
料理長が教えてくれたレシピ集に、日持ちするパンもあったはず。
それから、それから――
「ま、町に戻るんじゃろ。早く食べちゃいなさいよ」
「あ、そうだった! アレックスさん、フレドリクさん。急いで食べま……食べ終わってる?」
「うっす!」
「はい」
まだ食べ終えてないの、僕だけじゃん!