「ハンスさん。すぐに使える部屋はありますか?」

 町まで戻ってくると、獣人族とエルフの皆さんには領主の館に来てもらった。
 まずは湯あみをしてもらって、その間に部屋の用意と食事の準備に取り掛かる。

「チェリーチェに準備させ、夕食が終わるまでに六部屋用意させます。しかしベッドの数はどうにもなりませんので」
「うん、そうですよね」

 以前いた使用人の部屋は、冒険者さんたちに使ってもらっている。
 他の部屋は客室だから、一部屋に大きなベッドがひとつあるだけ。
 キングサイズっていうのかな。ひとつで三人は寝れるけど、それでもちょっと足りないな。

「坊ちゃん、俺たちの部屋を彼らに使わせてやってください。俺らは宿に泊まるんで」
「え、でもこの町に宿なんて……」
「デュカルト様。宿の修繕をお命じになられていらっしゃいましたでしょう。先日、応急処置の方が済みまして」
「そうだったんですね。部屋とかは使えるのですか?」
「はい。問題はございません。ただ薪ストーブの用意がまだでして」

 この気温だと、いくら室内だってストーブがないと寒くて堪らないはず。

『デューよ。寒さ対策に何か魔導具を用意してやればよいのではないか?』
「それはいいですね。んー……そうだ」

 薪ストーブじゃなく、魔導ストーブはどうだろう。
 保温岩を円筒形にして、魔導石をくっつける。ちょっと高温になる術式にしてもらって、後ろ反面を囲うように薄い鉄板を――いやだめだ。鉄板を用意する時間がない。
 円筒形の魔導具部分だけで安全に使える方法――あ、あれならいいかも!

 七輪!





「これがシチリンってヤツですか?」
「はい。僕の魔導レンジだと大きなものは作れないので、少し小さめのものをいくつか用意しました」

 魔導レンジで作る七輪は、高さ三十センチが限界だ。
 その中に熱を発する円筒形の魔導具をセットして温めると、魔導具と同じ保温石で作った七輪も温まる。
 これなら網を乗せて、上でお湯を保温することもできるだろう。
 沸かすほどの熱は出せないけど。

「一部屋に二つ置いてください。もし温もりすぎるなら、一つだけ止めてもらえばいいので。試作みたいなものなので、実際に部屋が温もったかどうか明日聞かせてください」
『吾輩が術式を考えたのだからして、失敗はない!』
「まぁ七輪がうまく作用するかどうかってのもありますから」
「わかりました坊ちゃん。使い勝手の方は明日、報告させていただきます」
「はい。じゃ、みんなで夕食にしましょうか。もう湯あみを済ませた子もいるでしょうし」
「ですね」

 食材の用意はもう終わっていた。テーブルもセット完了だ。
 チェリーチェさんが全部やってくれたのだろう。

 まずは温かいスープをレンチンしよう。
 子供も多いし、クリームシチューがいいよね。
 そうだ。人参の形を星型にしよう。

 鍋に水とミルクを入れ、隙間に野菜とお肉を押し込んでレンチン。

「ルキアナさん、お願いします」
「任せるのじゃ。さ、みんな。お皿をとってくれる?」

 今日は人数も多いから、シチューももう二回ぐらいレンチンしないとね。
 新しい鍋で同じようにレンチン。もう一回、別の鍋でレンチン。
 次はフライパンで鶏肉とてりやきソースの材料、横に添えるコーンとインゲンをフライパンに入れてレンチン。
 一度に三人前しか作れないから、どんどんお皿に盛りつけてどんどんレンチン。
 ハンスさんと冒険者さん、それにエルフさんも手伝ってくれて、人数分完成。

 パンは気を利かせてくれたチェリーチェさんが、お店から買ってくてくれたものがあった。
 温めるために軽くレンチンして――

「それじゃあ、みなさん食べましょう。おかわりもすぐに用意できますから、遠慮せず食べてくださいね」

 あまりお待たせしても申し訳ないから、ひとまず二品だけ。
 みなさんの食べっぷりもみながら、追加で何品か作る準備はしてある。

「こ、こんなご馳走をいただいて、いいのか?」
「いいもなにも、せっかくレンチンしたんです。食べていただかないと、廃棄することになってしまいます」
「勿体ないんだから、食べればいいのよ。いっただきま~す。ん~、てりやきソースが美味しいぃ。ほんっとデューが思いつく創作料理って、なんでも美味しいわねぇ」
「えへへ、ありがとうございますルキアナさん」

 創作じゃないんですけどね。

「冒険者のみなさん、足りますか? ハンバーガーをレンチンしましょうか?」
「お、いいのかい坊ちゃん」
「だったら俺はダブルで頼むぜ」
「つ、月見……いいですか?」
「もちろんです」

 卵を――という前に、テーブルには卵がいくつか置かれていた。
 あ、相変わらず早いなぁ。
 それにパンの材料もある。

 まずはバンズをレンチンして、それから他の材料とバンズをレンジに入れてチン。
 バンズだけ先にレンチンしたほうが、ソースがしみ込み過ぎなくていいっていうのを最近知ったんだよね。

「まずはダブルバーガー。次――月見どうぞ」
「うおぉ、ありがてぇ」
「ありがとうございます、ご領主様。んふふ、もう月見の虜です」

 異世界でハンバーガー屋さんをオープンしたら、ぼろ儲けするんじゃないだろうか。
 それを見ていた獣人族の子供たちも興味津々で、ハンバーガーを見ていた。

「食うか、嬢ちゃん?」

 筋骨隆々の冒険者にそう言われ、小さな女の子がお父さんの腕に顔を埋める。
 怖い……というより、恥ずかしいみたいだ。

「小さいハンバーガーを作りましょうか? このサイズはさすがに入らないかもしれないですし」
「い、いいのか? じ、じゃあ、子供だけ」
「遠慮なさらないでください。作るのは簡単ですので」

 普通のハンバーガー、それからチーズバーガー、小さいサイズの月見は無理なので、ここはエッグバーガーに変えてたくさんレンチン。

「さ、どうぞ。食べたいものを取ってくださいね。エルフさんも遠慮しないでください」
「ありがとうございます。ですが私たちエルフは、他の種族に比べて元々小食ですから」
「そうですか」

 確かに大食いのイメージはないもんなぁ。
 するとルキアナさんが僕の肘を突いて「エルフは野菜や果物を好むのじゃ」だって。
 そっか。じゃ、新鮮なサラダと果物を使ったゼリーを用意しよう。

 ハンスさんに「サラダとゼリーを用意したいのですが」と伝えると、数秒後には材料がテーブルに。
 いつもありがとうございます。そうだ、チェリーチェさんの分もレンチンしておこう。

 サラダとゼリーをレンチンしたあと、三種のバーガーをレンチン。
 そのバーガーとシチュー、チキンステーキとサラダとゼリーを二人分よけて――

「ハンスさん。こちらはチェリーチェさんと召し上がってください」
「デュカルト様……ありがとうございます」
「いえ、いつもお二人にはお世話になっていますから。冷めないうちにどうぞ」
「畏まりました。それでは頂かせていただきます」

 ハンスさんは料理をカートに乗せ、隣の控室へと向かった。
 そこでチェリーチェさんと食事をしているらしい。
 いつかハンスさんたちとも食事ができるようになるといいなぁ。

 気づけばレンチンしたハンバーガーは完売。
 追加が必要かなと思ったけど、満腹になったせいか、子供たちは既に目がしょぼしょぼ。
 冒険者さんたちも食事を終え、七輪を抱えて宿へと向かった。

「それでは、ゆっくり休んでください」
「何から何まで、感謝する」
「いえ、気になさらないでください。それでは、おやすみなさい」
「むにゃ、あやちゅみお兄ちゃん」

 ふふ、かわいいなぁ。
 いい夢が見れるといいんだけど。

 静かに部屋の扉を閉める時、さっきの女の子の声が聞こえた。

「おかぁしゃん」

 ――と。
 子供たちを助けに来たのはお父さんばかりだ。
 お母さんはどうしたんだろう。
 明日、それとなくお父さん方に聞くことにしよう。