「デュカルト様まで行かれるのですか?」
報告を受けてからすぐ、僕たちは行動にでた。
侵入者(仮)が誰なのか、確かめるためにだ。
「もし本当に侵入者だったら、僕がその場でどうするか決めた方がいいでしょう? 侵入者じゃなかったときも同様です」
「しかし、もし武装した者たちであったなら――」
「その時はフレドリクさんや冒険者のみなさんが、守ってくださるのでしょう?」
その場に集まった冒険者さんたちは、全員が頷いている。
それを見てフレドリクさんも、諦めたように頷いた。
「で、そっちのお嬢さんは?」
と冒険者さんに問われたのはルキアナさんだ。
彼女が同行する理由は単純明快。
「そいつらが立てこもってる家、私の実家なのじゃ」
「あらぁ……そりゃ勝手に居つかれちゃ困るわね」
そう。侵入者(仮)は森にあるルキアナさんの家に侵入しているってことなんだ。
この雪だし、冬の間はそこに隠れ住むのかもしれない。
逆に言えば、今いかなきゃ逃げられてしまうかも。
「さぁ、行きましょう。アマンダさん、雪上歩行の魔法お願いします!」
「……領主様、もしかして雪の上を歩きたいだけなんじゃ」
「いいえ違います! みなさんが雪の上をさくさく歩くのが羨ましかったとか、そんなことは断じてありません! 行きますよっ。レッツゴーです!」
魔法のおかげでずぼっと沈んだりしないらしい。
これなら濡れることなく、雪の上を思いっきり走れるぞぉ~。
「さぶっ」
「なんじゃ。あれだけ張り切ってた癖に」
だって寒いんだもん!
『融雪装置の有難味がわかったようだな』
「ですね。雪を溶かしたいだけだったんですが、こんな温度差も生み出していたなんて」
豪雪地帯にこれが普及すれば、きっとたくさんの人が暮らしやすくなるだろうな。
ロックレイも山道にずーっと設置できれば、冬場でも下の町に行き来できるようになる。
雪の季節が終わって、鉱石の採掘が安定したら量産を考えよう。
そんなことを考えていたら、冒険者さんが立ち止まった。
ここはルキアナさんの家がある森の入り口だ。
「デュカルト様。向こうからわだちが続いています」
冒険者さんが指しているのは、雪を踏み固めて作ったようなわだちだ。
昨日の夜も雪が降ってるし、それでしっかりわだちが残っているということは。
「ここへ来たばかりですかね?」
「かもしれませんし、何日か前からここにいて、食料調達とか何かで出回っているのかもしれません。実際あちこちわだちや足跡が残ってますから」
食料か。だけど獣はいない。
ダンジョンモンスターがこの辺りの動物を食い尽くしてしまったようだから。
そのダンジョンモンスターも、まだ見つかっていない。
ヴァルゼさん曰く『生理的に日差しの下が嫌いなのだろう』ってことと『奴らも雪を見るのは初めてだろうからな』と。
冒険者さんも、今はどこかに身を隠しているはずだって言ってた。
さて、今は目の前のことを考えよう。
侵入者(仮)がひとりなら、わだちを作る必要なんてなさそうだ。
ってことは。
「複数ですよね?」
僕は誰にというわけでもなく、質問した。
それに答えてくれたのはフレドリクさんだ。
「おそらく二十五人」
「二十五!? 私の家、そんなに入れないわよ……」
「そうか? 床に座って寝ればもっと入れると思うが」
フレドリクさんが真顔で答える。
そういう正論ではないと思うんだよね。
「足跡のほとんどは、大きさからして子供か、小柄な女性だと思います。サイズの大きな足跡は六。これは男のものでしょう。あと気になるものもあります」
「気になる? なんですか」
「細長い物を引っ張った跡があります。縄かなにかかと思いましたが、雪に錆が付着していたので鉄製のもの、鎖ではないかと」
鎖……子供か、小柄な女性。
そこから連想できるものに嫌悪を感じる。
「急ぎましょう。もし思っている状況だった場合、その方たちを保護しなければなりません」
「商人《・・》はどうします?」
「ダンジョンモンスターの討伐と町の警護という内容で来ていただいたのに申し訳ありませんが、商人とその一味を捕らえていただけますか?」
「もちろんだぜ。特別手当、期待してますから」
「ふふ。わかりました。用意します」
雪上歩行、そして無音の魔法をかけて僕らは走り出す。
そしてルキアナさんの家の脇にある茂みに身を隠し、周囲の様子を窺った。
『吾輩が中の様子を見てやろうか』
「ヴァルゼさんがですか?」
『ふっ。吾輩、幽霊であるからして』
あ、そうか。壁とか建物とか、すり抜けられるんだった。
しかも姿も見えなくしたり、見せるようにしたり自由なんだっけ。
「じゃ、お願いします」
『任せたまえ』
オラクルときらーんっと光らせ、ヴァルゼさんが僕の背後からすぅーっと離れ……られない。
あ……。
しばらく沈黙が続く。
きっともう、ここにいるみんなは気づいてしまっているんだ。
『吾輩、デューに憑りついているから離れられないのだった』
「ですよねー」
はぁっとその場にいる全員がため息を漏らす。
それが聞こえてしまったのか、木の家の扉がバンっと開いた。
「出てこいクソ奴隷商人め! 二度と家族を連れていかせはしない!!」
そう吠えたのは、狼男だった。
報告を受けてからすぐ、僕たちは行動にでた。
侵入者(仮)が誰なのか、確かめるためにだ。
「もし本当に侵入者だったら、僕がその場でどうするか決めた方がいいでしょう? 侵入者じゃなかったときも同様です」
「しかし、もし武装した者たちであったなら――」
「その時はフレドリクさんや冒険者のみなさんが、守ってくださるのでしょう?」
その場に集まった冒険者さんたちは、全員が頷いている。
それを見てフレドリクさんも、諦めたように頷いた。
「で、そっちのお嬢さんは?」
と冒険者さんに問われたのはルキアナさんだ。
彼女が同行する理由は単純明快。
「そいつらが立てこもってる家、私の実家なのじゃ」
「あらぁ……そりゃ勝手に居つかれちゃ困るわね」
そう。侵入者(仮)は森にあるルキアナさんの家に侵入しているってことなんだ。
この雪だし、冬の間はそこに隠れ住むのかもしれない。
逆に言えば、今いかなきゃ逃げられてしまうかも。
「さぁ、行きましょう。アマンダさん、雪上歩行の魔法お願いします!」
「……領主様、もしかして雪の上を歩きたいだけなんじゃ」
「いいえ違います! みなさんが雪の上をさくさく歩くのが羨ましかったとか、そんなことは断じてありません! 行きますよっ。レッツゴーです!」
魔法のおかげでずぼっと沈んだりしないらしい。
これなら濡れることなく、雪の上を思いっきり走れるぞぉ~。
「さぶっ」
「なんじゃ。あれだけ張り切ってた癖に」
だって寒いんだもん!
『融雪装置の有難味がわかったようだな』
「ですね。雪を溶かしたいだけだったんですが、こんな温度差も生み出していたなんて」
豪雪地帯にこれが普及すれば、きっとたくさんの人が暮らしやすくなるだろうな。
ロックレイも山道にずーっと設置できれば、冬場でも下の町に行き来できるようになる。
雪の季節が終わって、鉱石の採掘が安定したら量産を考えよう。
そんなことを考えていたら、冒険者さんが立ち止まった。
ここはルキアナさんの家がある森の入り口だ。
「デュカルト様。向こうからわだちが続いています」
冒険者さんが指しているのは、雪を踏み固めて作ったようなわだちだ。
昨日の夜も雪が降ってるし、それでしっかりわだちが残っているということは。
「ここへ来たばかりですかね?」
「かもしれませんし、何日か前からここにいて、食料調達とか何かで出回っているのかもしれません。実際あちこちわだちや足跡が残ってますから」
食料か。だけど獣はいない。
ダンジョンモンスターがこの辺りの動物を食い尽くしてしまったようだから。
そのダンジョンモンスターも、まだ見つかっていない。
ヴァルゼさん曰く『生理的に日差しの下が嫌いなのだろう』ってことと『奴らも雪を見るのは初めてだろうからな』と。
冒険者さんも、今はどこかに身を隠しているはずだって言ってた。
さて、今は目の前のことを考えよう。
侵入者(仮)がひとりなら、わだちを作る必要なんてなさそうだ。
ってことは。
「複数ですよね?」
僕は誰にというわけでもなく、質問した。
それに答えてくれたのはフレドリクさんだ。
「おそらく二十五人」
「二十五!? 私の家、そんなに入れないわよ……」
「そうか? 床に座って寝ればもっと入れると思うが」
フレドリクさんが真顔で答える。
そういう正論ではないと思うんだよね。
「足跡のほとんどは、大きさからして子供か、小柄な女性だと思います。サイズの大きな足跡は六。これは男のものでしょう。あと気になるものもあります」
「気になる? なんですか」
「細長い物を引っ張った跡があります。縄かなにかかと思いましたが、雪に錆が付着していたので鉄製のもの、鎖ではないかと」
鎖……子供か、小柄な女性。
そこから連想できるものに嫌悪を感じる。
「急ぎましょう。もし思っている状況だった場合、その方たちを保護しなければなりません」
「商人《・・》はどうします?」
「ダンジョンモンスターの討伐と町の警護という内容で来ていただいたのに申し訳ありませんが、商人とその一味を捕らえていただけますか?」
「もちろんだぜ。特別手当、期待してますから」
「ふふ。わかりました。用意します」
雪上歩行、そして無音の魔法をかけて僕らは走り出す。
そしてルキアナさんの家の脇にある茂みに身を隠し、周囲の様子を窺った。
『吾輩が中の様子を見てやろうか』
「ヴァルゼさんがですか?」
『ふっ。吾輩、幽霊であるからして』
あ、そうか。壁とか建物とか、すり抜けられるんだった。
しかも姿も見えなくしたり、見せるようにしたり自由なんだっけ。
「じゃ、お願いします」
『任せたまえ』
オラクルときらーんっと光らせ、ヴァルゼさんが僕の背後からすぅーっと離れ……られない。
あ……。
しばらく沈黙が続く。
きっともう、ここにいるみんなは気づいてしまっているんだ。
『吾輩、デューに憑りついているから離れられないのだった』
「ですよねー」
はぁっとその場にいる全員がため息を漏らす。
それが聞こえてしまったのか、木の家の扉がバンっと開いた。
「出てこいクソ奴隷商人め! 二度と家族を連れていかせはしない!!」
そう吠えたのは、狼男だった。