「たくさん作れたんですね」
ずらーっと並んだ半透明な石――魔導石。
大きさは三種類。転移装置に使われていたソフトボールを少し楕円形にしたようなサイズのものと、うずらと鶏の卵の中間ぐらいのと、直径五ミリぐらいの小さなものだ。
「用途に合わせて、大きさって決まっているんですか?」
『それもあるが、単純に魔導具ごとに大きさを変えるのが面倒くさいだけだ』
「大量生産するなら、鋳型に流し込んで作った方が楽だかんな」
なるほど。
一番小さいものは、エンチャントリングに使用されるサイズだろう。
大きなものは転移装置のような大型の魔導具に。
融雪装置ならどれがいいかな。
「さっそくですが、融雪装置を作りませんか? そろそろ雪も降りそうですし」
『うむ、そうだな。ではどういった形にするか決めなくては』
「え!? 構想は考えてるって言ってませんでしたか!?」
『術式のことだ。装置そのものの形は考えてない!』
ドヤ顔ぉぉ。
刻む術式だけ考えてたって……ま、まぁいいや。
融雪装置だから地面に埋めるか敷くかだ。四角くて平らな形でいいと思う。
「形はシンプルに、板状でいいと思うのですが。町の中だと石畳の上に敷いても支障がないように、薄い方がいいですね」
『うむ。その上を人や荷車が行き来するのを考えると、それがよいだろうな。しかし木材はいかんぞ。熱で焦げてしまえば、術式が消えて、魔導具として使えなくなるからな』
「木製はダメですか……じゃあ、何を使おうかな」
鉱山だから鉄鉱石もある。鉄なら熱ぐらいじゃ溶けないだろうけど、融けた雪でつるんって滑りそう。
「なら、これはどうじゃ?」
「これ? それは、石……あっ」
作業場で寝泊まりしている間、ドワーフさんが湯たんぽ代わりにくれた石だ。
石だから強度もあるし、焦げたりもしない。
「いいですね! ありがとうございます、ルキアナさん。ドズルさん、この石ってたくさんあるんですか? できれば大きいものが欲しいんですが」
「心配ねぇ。ドワーフの里に向かう途中に岩山は、全部これだからな」
「よかった! それじゃあ板状にレンチンして、そのまま術式を刻めますね」
すぐに岩の切り出しが行われた。
魔導レンジの庫内サイズは、横四十五センチ、奥行きが三十四センチ、高さは三十センチある。
これに収まるサイズに切り出してもらった岩を、ドワーフさんの手で魔導レンジに入れてもらう。
その岩の上に、魔導石を十四個置いた。
プレート一枚につき石は二個使うので、一度の調理で七枚の融雪装置を作る。
「横と奥行きの長さはそのままに。厚みは三センチ。刻む術式は――」
ヴァルゼさんから教えてもらった術式を、一度紙にメモしてある。
間違えてないかチェックしてもらって――実は一カ所間違えてて描き直してあるんだけど、それを見ながらレンジのスタートボタンを押す。
普段はすぐにチーンってするんだけど、今回は慎重に、ちょっとゆっくりめに調理した。
紙に描いた術式を指でなぞる。こうするとミスしない気がして。
実際、実家の屋敷の料理長に調理法を学んでいた時も、ノートにメモしたものを黙読しながらやった時は絶対に焦がさなかったし。
うろ覚えだとどこかでやらかしてしまうんだろうな。
チーンっと鳴って、できたてほやほやの融雪装置が完成。
術式はプレートの裏面に。傷が入るんを防ぐためだ。
そして表面には、滑り止めの役目にもなる溝を掘った。
立体駐車場の坂道なんかにある、丸い円の形をした溝だ。
ちゃんと動くか確かめるために、屋敷の外にプレートを並べて起動。
「すぐには温かくなりませんね」
「そりゃ石だもん。すぐにとはいかないわよ」
「数分待ってな」
数分待つと、ほんのり温かくなってきた。
「動いてますね!」
「水をかけてみるのじゃ。蒸発すれば、熱量も十分ってことじゃ」
「デュカルト様、お持ちしました」
「ありがとうございます、ハンスさん」
言った傍から持ってきてくれるなんて、たぶんチェリーチェさんだな。
コップに入った水を垂らすと、じんわりと蒸発する。
「よし!」
「これぐれぇなら踏んでも熱くねぇし、大丈夫だな」
『ふっ。触れても火傷をせぬ温度になるよう、微調整をしておるからな。ま、吾輩の手にかかれば、細かい温度調整を行う術式を考えることなど、造作もないこと! くはーっはっはっは』
「はいはい。デュー、一気に量産するのじゃ。直に雪が降るわよ」
そうだ。ゆっくりしてる余裕なんてないんだった。
切り出した岩をどんどんレンチンしていく。
術式が刻まれ、魔導石がはめ込まれたプレートは、すぐに町の通りへと運ばれた。
重たいプレートを運んでくれたのは――
「さ、ノームたち。落とさないように運ぶのじゃ」
『むっむ』
ノーム。土の精霊だ。
「ルキアナさん、ありがとうございます。ノームって小さいのに、凄く力持ちなんですね」
「土は全てのものを支えてるでしょ? だから力持ちなのじゃ」
僕だとプレート一枚を持ち上げるのだって必死なのに、ノームたちは十枚重ねても軽々と持ち上げてしまう。
僕がレンチンをし、ダルタンさんが魔導レンジからプレートを取り出してノームに渡す。プレートを取り出すときに、ヴァルゼさんが術式をチェック。魔導レンジで調理しているから、一度でレンチンしたプレートにはまったく同じ術式が描かれている。チェックするのは一枚で十分だ。
何度か描き間違いがあったけれど、それは魔導石を外して隙間を埋める用に使う。
町の全ての道に敷き詰めるだけの時間はない。
空き家ばかりの通りは諦めて、一通りのあるところや人が暮らす民家の周辺、鉱山までの通路、同時にドワーフ族の里にも融雪装置を敷いて――
「雪だ」
作業開始から十日後。
必要最低限の道に融雪装置を敷き終えた頃、ついにロックレイは雪の季節に入った。
ずらーっと並んだ半透明な石――魔導石。
大きさは三種類。転移装置に使われていたソフトボールを少し楕円形にしたようなサイズのものと、うずらと鶏の卵の中間ぐらいのと、直径五ミリぐらいの小さなものだ。
「用途に合わせて、大きさって決まっているんですか?」
『それもあるが、単純に魔導具ごとに大きさを変えるのが面倒くさいだけだ』
「大量生産するなら、鋳型に流し込んで作った方が楽だかんな」
なるほど。
一番小さいものは、エンチャントリングに使用されるサイズだろう。
大きなものは転移装置のような大型の魔導具に。
融雪装置ならどれがいいかな。
「さっそくですが、融雪装置を作りませんか? そろそろ雪も降りそうですし」
『うむ、そうだな。ではどういった形にするか決めなくては』
「え!? 構想は考えてるって言ってませんでしたか!?」
『術式のことだ。装置そのものの形は考えてない!』
ドヤ顔ぉぉ。
刻む術式だけ考えてたって……ま、まぁいいや。
融雪装置だから地面に埋めるか敷くかだ。四角くて平らな形でいいと思う。
「形はシンプルに、板状でいいと思うのですが。町の中だと石畳の上に敷いても支障がないように、薄い方がいいですね」
『うむ。その上を人や荷車が行き来するのを考えると、それがよいだろうな。しかし木材はいかんぞ。熱で焦げてしまえば、術式が消えて、魔導具として使えなくなるからな』
「木製はダメですか……じゃあ、何を使おうかな」
鉱山だから鉄鉱石もある。鉄なら熱ぐらいじゃ溶けないだろうけど、融けた雪でつるんって滑りそう。
「なら、これはどうじゃ?」
「これ? それは、石……あっ」
作業場で寝泊まりしている間、ドワーフさんが湯たんぽ代わりにくれた石だ。
石だから強度もあるし、焦げたりもしない。
「いいですね! ありがとうございます、ルキアナさん。ドズルさん、この石ってたくさんあるんですか? できれば大きいものが欲しいんですが」
「心配ねぇ。ドワーフの里に向かう途中に岩山は、全部これだからな」
「よかった! それじゃあ板状にレンチンして、そのまま術式を刻めますね」
すぐに岩の切り出しが行われた。
魔導レンジの庫内サイズは、横四十五センチ、奥行きが三十四センチ、高さは三十センチある。
これに収まるサイズに切り出してもらった岩を、ドワーフさんの手で魔導レンジに入れてもらう。
その岩の上に、魔導石を十四個置いた。
プレート一枚につき石は二個使うので、一度の調理で七枚の融雪装置を作る。
「横と奥行きの長さはそのままに。厚みは三センチ。刻む術式は――」
ヴァルゼさんから教えてもらった術式を、一度紙にメモしてある。
間違えてないかチェックしてもらって――実は一カ所間違えてて描き直してあるんだけど、それを見ながらレンジのスタートボタンを押す。
普段はすぐにチーンってするんだけど、今回は慎重に、ちょっとゆっくりめに調理した。
紙に描いた術式を指でなぞる。こうするとミスしない気がして。
実際、実家の屋敷の料理長に調理法を学んでいた時も、ノートにメモしたものを黙読しながらやった時は絶対に焦がさなかったし。
うろ覚えだとどこかでやらかしてしまうんだろうな。
チーンっと鳴って、できたてほやほやの融雪装置が完成。
術式はプレートの裏面に。傷が入るんを防ぐためだ。
そして表面には、滑り止めの役目にもなる溝を掘った。
立体駐車場の坂道なんかにある、丸い円の形をした溝だ。
ちゃんと動くか確かめるために、屋敷の外にプレートを並べて起動。
「すぐには温かくなりませんね」
「そりゃ石だもん。すぐにとはいかないわよ」
「数分待ってな」
数分待つと、ほんのり温かくなってきた。
「動いてますね!」
「水をかけてみるのじゃ。蒸発すれば、熱量も十分ってことじゃ」
「デュカルト様、お持ちしました」
「ありがとうございます、ハンスさん」
言った傍から持ってきてくれるなんて、たぶんチェリーチェさんだな。
コップに入った水を垂らすと、じんわりと蒸発する。
「よし!」
「これぐれぇなら踏んでも熱くねぇし、大丈夫だな」
『ふっ。触れても火傷をせぬ温度になるよう、微調整をしておるからな。ま、吾輩の手にかかれば、細かい温度調整を行う術式を考えることなど、造作もないこと! くはーっはっはっは』
「はいはい。デュー、一気に量産するのじゃ。直に雪が降るわよ」
そうだ。ゆっくりしてる余裕なんてないんだった。
切り出した岩をどんどんレンチンしていく。
術式が刻まれ、魔導石がはめ込まれたプレートは、すぐに町の通りへと運ばれた。
重たいプレートを運んでくれたのは――
「さ、ノームたち。落とさないように運ぶのじゃ」
『むっむ』
ノーム。土の精霊だ。
「ルキアナさん、ありがとうございます。ノームって小さいのに、凄く力持ちなんですね」
「土は全てのものを支えてるでしょ? だから力持ちなのじゃ」
僕だとプレート一枚を持ち上げるのだって必死なのに、ノームたちは十枚重ねても軽々と持ち上げてしまう。
僕がレンチンをし、ダルタンさんが魔導レンジからプレートを取り出してノームに渡す。プレートを取り出すときに、ヴァルゼさんが術式をチェック。魔導レンジで調理しているから、一度でレンチンしたプレートにはまったく同じ術式が描かれている。チェックするのは一枚で十分だ。
何度か描き間違いがあったけれど、それは魔導石を外して隙間を埋める用に使う。
町の全ての道に敷き詰めるだけの時間はない。
空き家ばかりの通りは諦めて、一通りのあるところや人が暮らす民家の周辺、鉱山までの通路、同時にドワーフ族の里にも融雪装置を敷いて――
「雪だ」
作業開始から十日後。
必要最低限の道に融雪装置を敷き終えた頃、ついにロックレイは雪の季節に入った。