『そう緊張するな。術式を刻み間違えても、またリングを溶かして作り直せばよい』
「簡単に言いますけど、リングを溶かすって――」
『レンジでできるだろう?』
レ、レンジで……そうだ。坑道でやったじゃないか。
熔かして固める。
「術式を刻むのは、どうやるんですか?」
『野菜はどうやって切っておるのだ?』
「えっと……レ、レンジが……」
『では魔導レンジが刻んでくれよう。とにかくデューよ。術式をよぉーく見て刻むのだ』
冒険者のみなさんが見守る中、僕は魔導石を外したリングを魔導レンジに入れた。
魔導具に刻まれた術式には二つの意味があるとヴァルゼさんは言う。
一つは魔法を発動させるという意味。
もう一つは魔導石内のエネルギーを、発動させるという術式に流し込むというもの。
「はぁ……じゃ、やります。ヴァルゼさん、模様を教えてください」
『うむ』
ヴァルゼさんが指を動かすと、宙に幾何学模様が浮かび上がる。
宮廷魔術師だった家庭教師に教わった、マジックルーンに似た文字があるな。
文字を見ながら、それをリングに刻む――とイメージしながらスタート。
ん、んん?
あ、れ?
なんか物凄くたくさん、僕の中の何かが――魔力が吸い取られてる気が。
「あの、ヴァルゼさん」
『魔力であろう? そうだ。術式を刻むには、かなりの魔力を消耗する』
「え、でも僕、魔法は使えませんよ」
『術式を刻むことは魔法ではない。だが魔力は消費する。デュー、お主は膨大な魔力を持っているから、術式彫り師に適しておる』
こんなところで僕の無駄に多い魔力が役立つとは。
チーンと鳴って中身を手に取る。
リングの内側と外側に、幾何学模様が描けている。
間違っていないかヴァルゼさんい確認してもらうと――
『よし。間違ってはおらぬな』
「成功ってことですか?」
『うむ。おい、使ってみろ』
リングの持ち主である魔術師風の女の人に、作り直した魔導具を手渡す。
「あの、これ、何回使えるんだろう?」
『このサイズの魔導石は百回だな』
「そんなに使えるの!? やったっ。じゃ、一回ぐらい試しに使ってもいいか。キリー、実験台にお願い」
じ、実験台……。
女の人が「ディフェンスシールド」と唱えると、キリーと呼ばれた剣士さんの体がうっすらと光った。
「成功してる!?」
「領主様、それはこいつを殴ってみないとわかりませんよ」
「え、殴る?」
言うや否や、別の屈強な男の人がキリーさんを殴った。
いや、殴ろうとしたけど、拳が届いていない。何かに弾かれたようだ。
「キャーっ。ちゃんとディフェンスかかってるぅ」
「防御魔法ですか」
「そうなのそうなのぉ。よかったぁ。コツコツ貯金して、やぁっと買った初めての魔道具なんです。それが不良品だったもんだから、すっごく落ち込んでたの」
「実際、そういう魔導具って多いんですよね?」
「そうだな。出回ってる魔導具の二割ぐらいは不良品だし、三割ぐらいはエネルギー残量が少ないとかそんなんばっかりだ」
だから冒険者は、魔導具が入った宝箱を迷宮で探している。
どうして魔導具が迷宮で見つかるのかは、僕にもわからない。ヴァルゼさんなら知ってるかな?
その時ふと、背中に悪寒が走った。
「あー、んー、たぁー、たー、ちぃ」
「ル、ルキアナ、さん」
階段の上から、ドスの効いたルキアナさんの声が。
しまった。
冒険者のみなさんを部屋に案内すると言ってから、案内しないまま階段下でずーっとレンチンだのなんだのしてた。
ルキアナさんには部屋の前で待ってもらっていたんだ。具体的に男女の人数が分からないから、部屋の割り当てをその場で決めるために。
ずーっと、彼女を待たせてしまってた!
「いったいいつまで待たせるのじゃ!」
「ご、ごめんなさぁい」
うわぁん、すっかり忘れてたぁ。
「それもこれも、ヴァルゼさんが予定外のタイミングで出てくるからですよ!」
……っていないし!
こんな時だけ姿を消すなんて、卑怯だあぁぁぁぁぁぁぁ。
「こんなお菓子で、んく、長々と待たせたことがチャラになると、んん、思わないでよね」
「分かってますって」
でもニコニコ顔でたい焼き、食べてるじゃないですか。
フレドリクさんが早馬で一番近くの冒険者ギルドに行って帰って来るのに四日。
その間に護衛にドワーフさんの戦士と一緒に、ルキアナさんの実家のある森へ行った。
鳥のさえずりは聞こえてきたけど、それ以外の動物の姿は全く見えず、少し不気味に感じた。
彼女の実家から持ち帰った小豆で、今回はたい焼きをレンチンしてみた。
造形がなんというか、鯛というより鯉に見えるけど気にしない。
僕の記憶にあるたい焼きより、少し餡子の甘さが足りないな。砂糖が少なかったのかな。
でもたい焼きを知らないルキアナさんには、好評だったようだ。
「ルキアナさんをお待たせして悪かったと思いますが、実は凄いことできたんです」
「凄いこと? おかわり」
「あ、はい。餡子がもうないので、カスタードクリームで焼きますね。"魔導レンジ"」
小豆を全部使ってしまう訳にもいかないので、少量しか用意していない。
チョコレートがあればなぁ。
カスタードクリームのたい焼きをレンチンして、ルキアナさんに手渡す。
「実はですね、魔導レンジで魔導具をレンチンしたんです」
「まほうぐほ!? んく。できたの?」
「はい、できました! 冒険者さんが持っていた魔導具が不良品で、術式に傷が入って使えなかったんです。リングだったのですが、それをレンジで溶かして作り直しました」
「やったじゃない! 魔導レンジで魔導具が作れることが証明されたのじゃな」
「そうなんです。魔導鉱石の精錬ができるようになれば、僕にも魔導具が作れるということがわかりました」
これは大きな第一歩だ。
僕にも魔導具が作れる。
融雪装置、現実味を帯びてきたな。
あとは追加の鉱石が早く採掘されることを祈らないと。
雪が降り積もる前に見つかりますように。
「簡単に言いますけど、リングを溶かすって――」
『レンジでできるだろう?』
レ、レンジで……そうだ。坑道でやったじゃないか。
熔かして固める。
「術式を刻むのは、どうやるんですか?」
『野菜はどうやって切っておるのだ?』
「えっと……レ、レンジが……」
『では魔導レンジが刻んでくれよう。とにかくデューよ。術式をよぉーく見て刻むのだ』
冒険者のみなさんが見守る中、僕は魔導石を外したリングを魔導レンジに入れた。
魔導具に刻まれた術式には二つの意味があるとヴァルゼさんは言う。
一つは魔法を発動させるという意味。
もう一つは魔導石内のエネルギーを、発動させるという術式に流し込むというもの。
「はぁ……じゃ、やります。ヴァルゼさん、模様を教えてください」
『うむ』
ヴァルゼさんが指を動かすと、宙に幾何学模様が浮かび上がる。
宮廷魔術師だった家庭教師に教わった、マジックルーンに似た文字があるな。
文字を見ながら、それをリングに刻む――とイメージしながらスタート。
ん、んん?
あ、れ?
なんか物凄くたくさん、僕の中の何かが――魔力が吸い取られてる気が。
「あの、ヴァルゼさん」
『魔力であろう? そうだ。術式を刻むには、かなりの魔力を消耗する』
「え、でも僕、魔法は使えませんよ」
『術式を刻むことは魔法ではない。だが魔力は消費する。デュー、お主は膨大な魔力を持っているから、術式彫り師に適しておる』
こんなところで僕の無駄に多い魔力が役立つとは。
チーンと鳴って中身を手に取る。
リングの内側と外側に、幾何学模様が描けている。
間違っていないかヴァルゼさんい確認してもらうと――
『よし。間違ってはおらぬな』
「成功ってことですか?」
『うむ。おい、使ってみろ』
リングの持ち主である魔術師風の女の人に、作り直した魔導具を手渡す。
「あの、これ、何回使えるんだろう?」
『このサイズの魔導石は百回だな』
「そんなに使えるの!? やったっ。じゃ、一回ぐらい試しに使ってもいいか。キリー、実験台にお願い」
じ、実験台……。
女の人が「ディフェンスシールド」と唱えると、キリーと呼ばれた剣士さんの体がうっすらと光った。
「成功してる!?」
「領主様、それはこいつを殴ってみないとわかりませんよ」
「え、殴る?」
言うや否や、別の屈強な男の人がキリーさんを殴った。
いや、殴ろうとしたけど、拳が届いていない。何かに弾かれたようだ。
「キャーっ。ちゃんとディフェンスかかってるぅ」
「防御魔法ですか」
「そうなのそうなのぉ。よかったぁ。コツコツ貯金して、やぁっと買った初めての魔道具なんです。それが不良品だったもんだから、すっごく落ち込んでたの」
「実際、そういう魔導具って多いんですよね?」
「そうだな。出回ってる魔導具の二割ぐらいは不良品だし、三割ぐらいはエネルギー残量が少ないとかそんなんばっかりだ」
だから冒険者は、魔導具が入った宝箱を迷宮で探している。
どうして魔導具が迷宮で見つかるのかは、僕にもわからない。ヴァルゼさんなら知ってるかな?
その時ふと、背中に悪寒が走った。
「あー、んー、たぁー、たー、ちぃ」
「ル、ルキアナ、さん」
階段の上から、ドスの効いたルキアナさんの声が。
しまった。
冒険者のみなさんを部屋に案内すると言ってから、案内しないまま階段下でずーっとレンチンだのなんだのしてた。
ルキアナさんには部屋の前で待ってもらっていたんだ。具体的に男女の人数が分からないから、部屋の割り当てをその場で決めるために。
ずーっと、彼女を待たせてしまってた!
「いったいいつまで待たせるのじゃ!」
「ご、ごめんなさぁい」
うわぁん、すっかり忘れてたぁ。
「それもこれも、ヴァルゼさんが予定外のタイミングで出てくるからですよ!」
……っていないし!
こんな時だけ姿を消すなんて、卑怯だあぁぁぁぁぁぁぁ。
「こんなお菓子で、んく、長々と待たせたことがチャラになると、んん、思わないでよね」
「分かってますって」
でもニコニコ顔でたい焼き、食べてるじゃないですか。
フレドリクさんが早馬で一番近くの冒険者ギルドに行って帰って来るのに四日。
その間に護衛にドワーフさんの戦士と一緒に、ルキアナさんの実家のある森へ行った。
鳥のさえずりは聞こえてきたけど、それ以外の動物の姿は全く見えず、少し不気味に感じた。
彼女の実家から持ち帰った小豆で、今回はたい焼きをレンチンしてみた。
造形がなんというか、鯛というより鯉に見えるけど気にしない。
僕の記憶にあるたい焼きより、少し餡子の甘さが足りないな。砂糖が少なかったのかな。
でもたい焼きを知らないルキアナさんには、好評だったようだ。
「ルキアナさんをお待たせして悪かったと思いますが、実は凄いことできたんです」
「凄いこと? おかわり」
「あ、はい。餡子がもうないので、カスタードクリームで焼きますね。"魔導レンジ"」
小豆を全部使ってしまう訳にもいかないので、少量しか用意していない。
チョコレートがあればなぁ。
カスタードクリームのたい焼きをレンチンして、ルキアナさんに手渡す。
「実はですね、魔導レンジで魔導具をレンチンしたんです」
「まほうぐほ!? んく。できたの?」
「はい、できました! 冒険者さんが持っていた魔導具が不良品で、術式に傷が入って使えなかったんです。リングだったのですが、それをレンジで溶かして作り直しました」
「やったじゃない! 魔導レンジで魔導具が作れることが証明されたのじゃな」
「そうなんです。魔導鉱石の精錬ができるようになれば、僕にも魔導具が作れるということがわかりました」
これは大きな第一歩だ。
僕にも魔導具が作れる。
融雪装置、現実味を帯びてきたな。
あとは追加の鉱石が早く採掘されることを祈らないと。
雪が降り積もる前に見つかりますように。