『現在、この大陸にはいくつの迷宮が存在しておるのだ?』
「五十六です」
ヴァルゼさんの質問に答えたのは、冒険者のフレドリクさんだ。
この大陸は比較的大きな、たとえるならユーラシア大陸ほどはある。
大きな大陸だけど、迷宮が五十六カ所もあるとは思わなかった。
『吾輩の最後の記憶では、迷宮の数は四十五だ』
「四十五……え、増えてる?」
『ちなみに、吾輩がデューぐらいの年齢の時には、四十九あったぞ』
「え!?」
四十九から四十五に減って、それからまた五十六に増えてる!?
ただ増えるだけならわかる。
その時代までに発見されていなかっただけだと言えるから。
でも減るっていうのは、どういうこと?
「迷宮は生まれ、そして死ぬ……冒険者の間で言われている言葉です」
「生まれて、死ぬ……」
「実際、自分が冒険者になってから、二つの迷宮が消滅しています」
「えぇ!? 迷宮が消滅?」
迷宮って、なくなるものだったのか。
もしかして迷宮のボスを倒すとなくなるとか?
『この時代の者は知らぬのか? 迷宮はある程度の魔素が失われると、消滅するのだぞ』
「え、そうなんですか?」
フレドリクさんを見ても、彼は首を傾げるだけ。
どうやら冒険者も知らないようだ。
『魔法王朝時代には研究が進んでいたのだがな。王朝が滅亡したのと同時に、研究成果も失われたか。では吾輩が聞かせてしんぜよう』
「お願いします」
魔素とは、この世界に漂う魔力の源のことを言う。
魔術師は漂う魔素と自身の魔力を混ぜ合わせて、魔法を発動させるそうだ。
そして魔導石の中に蓄えられているのも魔素。
『空気中に漂う魔素は、あらゆる生命に吸収されることで消費されていく。そのうえ、普通に薄まって消えていくものだ』
「薄くなるんですか?」
『空気は消費されるが、同時に作られてもいるだろう。空気と混ざって薄くなるのだ。同時に、空気と同じように、魔素も常に生み出されておる』
魔素って空気で薄められてるんだ……。
『地中に溜まった魔素は、魔導石に蓄えられる。だがそれだけでは消費は追いつかんだろう?』
「ま、まぁ、そうなんですかね?」
『そうなのだ。しかも魔素が薄くなる要素もない』
空気がないからか。
『高濃度の魔素が大量に溜まると、そこに迷宮が生まれる』
「迷宮内の魔素が濃いのって、そういう意味だったのじゃな」
迷宮内の魔素濃度とか、僕は知らなかった。
迷宮は魔素の塊みたいなもの。その魔素がモンスターを生み出す。
モンスターを倒すと、魔素の一部は四散する。残った魔素は再び迷宮に取り込まれ、新しいモンスターとして生成される。
『一部しか四散せぬとは言え、何万、何千万とモンスターを倒せば、四散した量も相当なものになるだろう。そうなるとだ――』
「迷宮が形として維持できなくなる?」
『その通りだデュー。迷宮内の魔素が薄くなれば、自然と迷宮は消滅する。だが、魔素は常に生成され続けるのだ。別の場所で新たな迷宮が生成されても、おかしくはないだろう?』
「……もしかして、ロックレイのどこかで迷宮が生成されているってことですか?」
『可能性は十分にある。今が太陽歴七三五年と聞いて、吾輩の中で何かが引っかかっていたのだが、おそらく周期だな』
周期?
ヴァルゼさん曰く、迷宮が生成される周期というのがあるらしいとのこと。
ただ魔法王朝でも、周期があるかどうかの確信はなかったそうだ。
あくまで『もしかして』のレベル。
『その周期というのがな、六六六年だ』
「うわぁ……」
「どうしたのじゃ、デュー?」
「あ、いえ、なんでもないです、ルキアナさん」
六六六とか、地球人的には不吉な数字で有名なヤツだ。
『魔導歴六五二年に、二十二の迷宮が誕生しておる。魔導歴から太陽暦までの間に、三十年ほどの空白があっただろう?』
「はい。その間の暦はありません」
『魔導歴は一二一八年で終わり、そこから三十年と、太陽暦は七三五年。これを魔導歴に足せば、一九八三年になる。魔導歴六五二年に迷宮生成が起こったのだから――』
次に迷宮が生成されたのは一三一八年ころ。
そこから六六六年を足して――一九八四年。
「え、来年!?」
『うむ』
「で、でも、それならまだ、迷宮は生成されていないことじゃない?」
『まだ生成はされていないだろう。だが影響は既に出ている。むしろ今が一番、危険とも言えよう』
迷宮はまだできていない。
だけど魔素はすこぶる濃くなっている。その影響で、本来迷宮内で生み出されるはずのモンスターが、地中に出現することがあるらしい。
『地中で生み出されたモンスターは、そのまま圧死する。だが、運よくそこが地中に出来た空洞内だとしたら?』
「死なない、ってことですよね」
『その通りだ。そして迷宮ではない場所で生まれたモンスターに、迷宮から出たくないという思考が存在しない。最初から迷宮の外にいるのだから当然だろう』
そして本能の赴くまま、目にした生命を手あたり次第襲う……。
もしこの山のどこかに迷宮が生成されようとしているのなら、大変なことになりそうだ。
「五十六です」
ヴァルゼさんの質問に答えたのは、冒険者のフレドリクさんだ。
この大陸は比較的大きな、たとえるならユーラシア大陸ほどはある。
大きな大陸だけど、迷宮が五十六カ所もあるとは思わなかった。
『吾輩の最後の記憶では、迷宮の数は四十五だ』
「四十五……え、増えてる?」
『ちなみに、吾輩がデューぐらいの年齢の時には、四十九あったぞ』
「え!?」
四十九から四十五に減って、それからまた五十六に増えてる!?
ただ増えるだけならわかる。
その時代までに発見されていなかっただけだと言えるから。
でも減るっていうのは、どういうこと?
「迷宮は生まれ、そして死ぬ……冒険者の間で言われている言葉です」
「生まれて、死ぬ……」
「実際、自分が冒険者になってから、二つの迷宮が消滅しています」
「えぇ!? 迷宮が消滅?」
迷宮って、なくなるものだったのか。
もしかして迷宮のボスを倒すとなくなるとか?
『この時代の者は知らぬのか? 迷宮はある程度の魔素が失われると、消滅するのだぞ』
「え、そうなんですか?」
フレドリクさんを見ても、彼は首を傾げるだけ。
どうやら冒険者も知らないようだ。
『魔法王朝時代には研究が進んでいたのだがな。王朝が滅亡したのと同時に、研究成果も失われたか。では吾輩が聞かせてしんぜよう』
「お願いします」
魔素とは、この世界に漂う魔力の源のことを言う。
魔術師は漂う魔素と自身の魔力を混ぜ合わせて、魔法を発動させるそうだ。
そして魔導石の中に蓄えられているのも魔素。
『空気中に漂う魔素は、あらゆる生命に吸収されることで消費されていく。そのうえ、普通に薄まって消えていくものだ』
「薄くなるんですか?」
『空気は消費されるが、同時に作られてもいるだろう。空気と混ざって薄くなるのだ。同時に、空気と同じように、魔素も常に生み出されておる』
魔素って空気で薄められてるんだ……。
『地中に溜まった魔素は、魔導石に蓄えられる。だがそれだけでは消費は追いつかんだろう?』
「ま、まぁ、そうなんですかね?」
『そうなのだ。しかも魔素が薄くなる要素もない』
空気がないからか。
『高濃度の魔素が大量に溜まると、そこに迷宮が生まれる』
「迷宮内の魔素が濃いのって、そういう意味だったのじゃな」
迷宮内の魔素濃度とか、僕は知らなかった。
迷宮は魔素の塊みたいなもの。その魔素がモンスターを生み出す。
モンスターを倒すと、魔素の一部は四散する。残った魔素は再び迷宮に取り込まれ、新しいモンスターとして生成される。
『一部しか四散せぬとは言え、何万、何千万とモンスターを倒せば、四散した量も相当なものになるだろう。そうなるとだ――』
「迷宮が形として維持できなくなる?」
『その通りだデュー。迷宮内の魔素が薄くなれば、自然と迷宮は消滅する。だが、魔素は常に生成され続けるのだ。別の場所で新たな迷宮が生成されても、おかしくはないだろう?』
「……もしかして、ロックレイのどこかで迷宮が生成されているってことですか?」
『可能性は十分にある。今が太陽歴七三五年と聞いて、吾輩の中で何かが引っかかっていたのだが、おそらく周期だな』
周期?
ヴァルゼさん曰く、迷宮が生成される周期というのがあるらしいとのこと。
ただ魔法王朝でも、周期があるかどうかの確信はなかったそうだ。
あくまで『もしかして』のレベル。
『その周期というのがな、六六六年だ』
「うわぁ……」
「どうしたのじゃ、デュー?」
「あ、いえ、なんでもないです、ルキアナさん」
六六六とか、地球人的には不吉な数字で有名なヤツだ。
『魔導歴六五二年に、二十二の迷宮が誕生しておる。魔導歴から太陽暦までの間に、三十年ほどの空白があっただろう?』
「はい。その間の暦はありません」
『魔導歴は一二一八年で終わり、そこから三十年と、太陽暦は七三五年。これを魔導歴に足せば、一九八三年になる。魔導歴六五二年に迷宮生成が起こったのだから――』
次に迷宮が生成されたのは一三一八年ころ。
そこから六六六年を足して――一九八四年。
「え、来年!?」
『うむ』
「で、でも、それならまだ、迷宮は生成されていないことじゃない?」
『まだ生成はされていないだろう。だが影響は既に出ている。むしろ今が一番、危険とも言えよう』
迷宮はまだできていない。
だけど魔素はすこぶる濃くなっている。その影響で、本来迷宮内で生み出されるはずのモンスターが、地中に出現することがあるらしい。
『地中で生み出されたモンスターは、そのまま圧死する。だが、運よくそこが地中に出来た空洞内だとしたら?』
「死なない、ってことですよね」
『その通りだ。そして迷宮ではない場所で生まれたモンスターに、迷宮から出たくないという思考が存在しない。最初から迷宮の外にいるのだから当然だろう』
そして本能の赴くまま、目にした生命を手あたり次第襲う……。
もしこの山のどこかに迷宮が生成されようとしているのなら、大変なことになりそうだ。