『剣士よ、どうであった?』
おはぎに向かって手を合わせてから、ヴァルツさんが話題を振った。
「そうだ。付近の様子はどうでしたか?」
以前、吊り橋の所にエンパイヤパイソンが居ついていたけど、本来はもっとずーっと奥の山に生息しているモンスターだと聞いた。
先日、フレドリクさんたちが狩ってきたモンスターも、普段はこの辺りで決して見かけないモンスターだったらしい。
更に最近、ドワーフ族の里近くでも、これまで見たことがなかったモンスターが現れるようになったとか。
それで、町の周辺にモンスターがいないか、巡回に出てもらっていた。
「吊り橋の先まで行って、ルキアナ殿のご実家とは違う東側に向かいました。ドワーフたちの話ですと、普段は兎や鹿といった動物の姿がよく見られるという事でしたが」
「その口ぶりですと、見かけなかったということですか?」
「その通りです。三時間ほど歩きましたが、一頭も見かけませんでした」
寒くなって来たし、冬眠しているとかではないのだろうか。
「あの、確認のために聞くのですが……兎や鹿って冬眠しないのですか?」
「しないわよ」
「そう、ですか……じゃあ、どこに行ったのだろう」
そこでフレドリクさんは話を切って、おはぎを口に運んだ。
何か隠している?
首を傾げながら僕もおはぎを完食。
「ごちそうさまでした」
「ん~、おいしかったぁ」
「今度は小豆のおはぎもレンチンしてみたいなぁ。でも小豆が手に入らないし……」
「小豆? うちにあるわよ。薬の材料にもなるから、育てているのじゃ」
「本当ですか!? それって森の家に?」
ルキアナさんが頷く。
「わぁっ。今度行きましょうっ。雪が積もる前に!」
「いいわよ」
「いいえ、デュカルト様。それはなりません」
「え、どうしてですかフレドリクさん」
彼はみんなを見渡した後、口を開いた。
「山の動物が消えたのは、捕食されたからです」
「え……」
「動物の骨が大量にありました。その周辺にはモンスターと思われる足跡もございましたので、お二人で出かけられるのは危険です」
山の動物が、全部食べられてしまったってこと?
あ、それでおはぎを食べ終わるのを待って、続きを話だしたのか。
モンスターのたいはんは肉食だし、動物を食べるのは当たり前。
なんだったら種が違えば、モンスター同士で捕食し合う事も普通にある。
だけど、これまでいた動物がいなくなるなんて、そうとうな数のモンスターが突然増えたとかじゃないと起こり得ない。
「森にもモンスターはいたけど、動物を食べつくしてしまうほどの数はいなかったのじゃ。しかも小型のモンスターばかりだし」
「先日フレドリクさんたちが捕まえたモンスター。あれが食べてしまったとかじゃないですか?」
「あ、あり得なくはないけど……そもそもアレだって、もっとずーっと山奥に生息しているはずで、この辺りまで下りて来たことなんて一度もないのじゃ。少なくとも、私とおばあさまがこの山で暮らすようになってからは……」
「しかし捕らえたアレらが森や山の動物を食いつくしたとは考えられません。モンスターは食べたものを、数日から数十日かけて消化いたします。あの数で森の動物を食いつくすなどということはありません」
本にもそんなことが書いてあったな。
確かに人と同じように食べた物を数時間で消化してたら、今頃この世界の動物は絶滅しているだろう。
じゃ、他にもモンスターが?
それ以前に、どうして山奥に生息するモンスターがこんな所まで来たんだろう。
群れからはぐれて山を下りて来てしまうことはあるだろうけど、それにしても数が数だ。
『例外はあるぞ』
「え? 例外って、何のですか?」
『食したものを消化するのに、何十日もかかるという話だ』
「そうじゃないモンスターもいるってことですかね?」
『その通りだ』
そいつが森や山の動物たちを、食い尽くしたってこと?
いったいどんなモンスターが!?
『迷宮……そこに生息するモンスターは、無限に獲物を喰らう』
「めい、きゅう……ダンジョンモンスターですか?」
「待つのじゃ。たしかにダンジョンモンスターの胃袋は底なしだと聞くが、ロックレイにはそもそも迷宮はないわよ」
「それに、どこかに迷宮があったとしても、地上にいる動物を襲えないでしょう?」
だって迷宮からは出てこれないのだから。
……たぶん。
ダンジョンモンスターは見た目や能力こそ地上にいるモンスターと同じだけど、生の成り立ちがまったく違う。
地上のモンスターは他の生き物と同様、繁殖行為によって生まれる生き物だ。
対してダンジョンモンスターは、ダンジョンそのものから生成《・・》されている。
壁からにょきっと出てくるそうだ。
死ぬとどろりと溶けるようにして、ダンジョンの床に吸収されるらしい。
そしてまた、ダンジョンによって生成される。
迷宮からは出てこない。それがダンジョンモンスターだ。
ただ、絶対――ではない。
スタンピードと呼ばれる、何かが引き金となって起こるダンジョンモンスターの大暴走が発生すると……出てくる、ことがある。
「もしかして、スタンピードでしょうか? でもいったいどこに迷宮が」
『スタンピードの可能性もあるが、吾輩は別の可能性を考えておる』
「別の? いったいなんでしょう」
ヴァルゼさんが神妙な面持ちで、オラクルをくいっと正す。
『ダンジョン生成――だ』
ダンジョンの生成……え?
新しく、どこかにダンジョンが作られるってこと!?
おはぎに向かって手を合わせてから、ヴァルツさんが話題を振った。
「そうだ。付近の様子はどうでしたか?」
以前、吊り橋の所にエンパイヤパイソンが居ついていたけど、本来はもっとずーっと奥の山に生息しているモンスターだと聞いた。
先日、フレドリクさんたちが狩ってきたモンスターも、普段はこの辺りで決して見かけないモンスターだったらしい。
更に最近、ドワーフ族の里近くでも、これまで見たことがなかったモンスターが現れるようになったとか。
それで、町の周辺にモンスターがいないか、巡回に出てもらっていた。
「吊り橋の先まで行って、ルキアナ殿のご実家とは違う東側に向かいました。ドワーフたちの話ですと、普段は兎や鹿といった動物の姿がよく見られるという事でしたが」
「その口ぶりですと、見かけなかったということですか?」
「その通りです。三時間ほど歩きましたが、一頭も見かけませんでした」
寒くなって来たし、冬眠しているとかではないのだろうか。
「あの、確認のために聞くのですが……兎や鹿って冬眠しないのですか?」
「しないわよ」
「そう、ですか……じゃあ、どこに行ったのだろう」
そこでフレドリクさんは話を切って、おはぎを口に運んだ。
何か隠している?
首を傾げながら僕もおはぎを完食。
「ごちそうさまでした」
「ん~、おいしかったぁ」
「今度は小豆のおはぎもレンチンしてみたいなぁ。でも小豆が手に入らないし……」
「小豆? うちにあるわよ。薬の材料にもなるから、育てているのじゃ」
「本当ですか!? それって森の家に?」
ルキアナさんが頷く。
「わぁっ。今度行きましょうっ。雪が積もる前に!」
「いいわよ」
「いいえ、デュカルト様。それはなりません」
「え、どうしてですかフレドリクさん」
彼はみんなを見渡した後、口を開いた。
「山の動物が消えたのは、捕食されたからです」
「え……」
「動物の骨が大量にありました。その周辺にはモンスターと思われる足跡もございましたので、お二人で出かけられるのは危険です」
山の動物が、全部食べられてしまったってこと?
あ、それでおはぎを食べ終わるのを待って、続きを話だしたのか。
モンスターのたいはんは肉食だし、動物を食べるのは当たり前。
なんだったら種が違えば、モンスター同士で捕食し合う事も普通にある。
だけど、これまでいた動物がいなくなるなんて、そうとうな数のモンスターが突然増えたとかじゃないと起こり得ない。
「森にもモンスターはいたけど、動物を食べつくしてしまうほどの数はいなかったのじゃ。しかも小型のモンスターばかりだし」
「先日フレドリクさんたちが捕まえたモンスター。あれが食べてしまったとかじゃないですか?」
「あ、あり得なくはないけど……そもそもアレだって、もっとずーっと山奥に生息しているはずで、この辺りまで下りて来たことなんて一度もないのじゃ。少なくとも、私とおばあさまがこの山で暮らすようになってからは……」
「しかし捕らえたアレらが森や山の動物を食いつくしたとは考えられません。モンスターは食べたものを、数日から数十日かけて消化いたします。あの数で森の動物を食いつくすなどということはありません」
本にもそんなことが書いてあったな。
確かに人と同じように食べた物を数時間で消化してたら、今頃この世界の動物は絶滅しているだろう。
じゃ、他にもモンスターが?
それ以前に、どうして山奥に生息するモンスターがこんな所まで来たんだろう。
群れからはぐれて山を下りて来てしまうことはあるだろうけど、それにしても数が数だ。
『例外はあるぞ』
「え? 例外って、何のですか?」
『食したものを消化するのに、何十日もかかるという話だ』
「そうじゃないモンスターもいるってことですかね?」
『その通りだ』
そいつが森や山の動物たちを、食い尽くしたってこと?
いったいどんなモンスターが!?
『迷宮……そこに生息するモンスターは、無限に獲物を喰らう』
「めい、きゅう……ダンジョンモンスターですか?」
「待つのじゃ。たしかにダンジョンモンスターの胃袋は底なしだと聞くが、ロックレイにはそもそも迷宮はないわよ」
「それに、どこかに迷宮があったとしても、地上にいる動物を襲えないでしょう?」
だって迷宮からは出てこれないのだから。
……たぶん。
ダンジョンモンスターは見た目や能力こそ地上にいるモンスターと同じだけど、生の成り立ちがまったく違う。
地上のモンスターは他の生き物と同様、繁殖行為によって生まれる生き物だ。
対してダンジョンモンスターは、ダンジョンそのものから生成《・・》されている。
壁からにょきっと出てくるそうだ。
死ぬとどろりと溶けるようにして、ダンジョンの床に吸収されるらしい。
そしてまた、ダンジョンによって生成される。
迷宮からは出てこない。それがダンジョンモンスターだ。
ただ、絶対――ではない。
スタンピードと呼ばれる、何かが引き金となって起こるダンジョンモンスターの大暴走が発生すると……出てくる、ことがある。
「もしかして、スタンピードでしょうか? でもいったいどこに迷宮が」
『スタンピードの可能性もあるが、吾輩は別の可能性を考えておる』
「別の? いったいなんでしょう」
ヴァルゼさんが神妙な面持ちで、オラクルをくいっと正す。
『ダンジョン生成――だ』
ダンジョンの生成……え?
新しく、どこかにダンジョンが作られるってこと!?