「それでは、この者らを連れてゆきます」
「はい、ご苦労様です。道中、どうかお気をつけてお戻りください。これ、よかったら途中の食事の時にどうぞ」
僕の背後にヴァルゼさんがくっついてから一週間後、ここから一番近い町から王国兵の方たちがやって来た。
目的はゼザーク子爵かガルバンダス侯爵が雇い入れた、あの罪人たちを連行するためだ。
それにしても、すぐに父上へ手紙を出しはしたけど、ずいぶんと早かったな。
ここから実家まで徒歩で十日は掛かるのに。
手紙はチェリーチェさんが直接父上に届けたそうなんだけど……ほんと、チェリーチェさんってどrだけ足が速いんだろうか。
「結局、あいつらって不法に雇われていたってことなの?」
「詳しいことは調べてみないとわからないそうですが、基本的に、国で指定した労働場所以外で罪人を働かせることはないそうなので」
「ならやっぱり不法じゃな」
たぶんルキアナさんが言う通りだと思う。
報酬がーって彼らは言ってたけど、たぶん払う気なんかなかったんじゃないかな。
ふう。でもこれで肩の荷がひとつ減ったな。
坑道を直下掘りする準備もできたし、崩落しないように補強も済んだ。
これでようやく、本格的に掘削ができる。
「と思ったんだけど。もう冬支度をしなきゃいけないんだっけ」
「そうじゃ。この辺りの冬の訪れは早く、そして長いのじゃ。雪深くなる前に冬支度をしなきゃならないのよ」
「たとえばどんなことをするんですか?」
「んー、そうね。狩りをして燻製肉や干し肉をたくさん作っておくのじゃ。それから薪を大量に用意する。家屋の修繕も場合によっては必要じゃな」
食料と寒さ対策か。
『うむ。この辺りの雪は深いからな。しっかりと準備をせねば、餓死してしまうぞ』
「え、そんなに? どのくらい積もるんですか?」
『うぅむ……吾輩、冬は地下に籠っておったからなぁ。どうせ外に出てもまともに動けぬし』
冬の間ずっと引き籠り……。
「ルキアナさん」
「私がすっぽり埋まるぐらいには積もるのじゃ」
「ル、ルキアナさんがすっぽり!?」
ルキアナさんは僕の身長とそう変わらない。ほんの少し、彼女のほうが高いのかな。
そのルキアナさんがすっぽりなら、僕だってすっぽりじゃないか!
「そうなると、冬場は鉱山に行くのも……」
「無理なんじゃない?」
「え、そうなのですか?」
ひとりだけちょっと次元が違う人がいる。
フレドリクさんだけど。
『ここから坑道の入り口まで近いとはいえ、毎日雪かきをするのは大変であろう。人手も少ないようだしな』
そう、なんだよね。
町から少し南東に行くと、ドワーフ族の里がある。
そこで暮らすドワーフ族は百人ぐらいいて、実はロックレイでは人間よりドワーフ族の方が多い。
町で暮らす人の数は、鉱山で働く作業員が二十五名。それぞれが奥様と一緒に暮らしている。
二十六人の中にアレックスさんもいて、彼はご両親と一緒に暮らしている。もちろんお父様も作業員だ。
町には鉱山で働く人以外に、食堂を営んでいるご夫婦と雑貨屋を営むご夫婦がいる。
それからお医者様と看護師さんのご夫婦と、全部で五十五人しかいない。
ここにハンスさんとチェリーチェさん、そして僕たちを合わせても六十人だ。
一メートルを超える積雪……想像もできない。
前世の僕は関東に住んでいた。数年に一度、十センチ積もるかどうかの地域。
十センチ積もったら公共の交通は麻痺して、会社にいくのも大変だったな。
休ませてくれればよかったのに、這ってでも出てこいって……徒歩で四十五分以上かけて出勤して、帰りの電車もないから職場に泊まったり……。
あぁ、思い出しただけでも胃がキリキリする。
「どうしたの?」
「あ、ゆ、雪のことを考えていたんです。融雪装置とかあれがなぁって」
「ゆうせつそうち? なんじゃ、それは」
「え、えぇーっと」
うわぁ、咄嗟に口から出ちゃったけど、融雪装置なんて実際にはよく知らないんだよ。
どこでそんな言葉、聞いたんだろう?
うーん……うーん……あ、そうだ。
東北の方から上京してきたっていう同僚が言ってたんだっけ。
たしか――
「ど――道の脇に、地面から水を出す装置とか。水で雪を溶かすんです」
「へぇ」
「しかしデュカルト様、ここは山岳地帯ですので。水は低い土地へ流れていきますから、ヘタをすると町が水浸しになるのでは?」
「そ、そうか。うん、そうだね。えっと、それじゃあ……」
他に聞いた融雪装置だと、地面に電気を流してその熱で雪を溶かすってのもあったな。
「熱の力で雪を溶かすんです」
「熱の力? いったいどうやって?」
「えっと、それは……」
この世界に電気はないし。パイプを通して、温水を流すとか?
いや、その前にパイプの中のお湯が凍結しそうだ。
この世界ならではの何かがないかなぁ。
『熱? 熱なら魔法でどうにかなるのではないか?』
「あっ。そ、そうです。魔法です! 火の魔法で雪を溶かせばいいんですっ」
「しかし、魔法を扱える人が少ないんじゃない? まぁ私は使えるけど」
「そ、そうですね……。うぅん、何かないかなぁ」
何か装置が作れれば……装置、そう……あっ。
「ヴァルゼさん! 魔法王朝時代に何かありませんでしたか? 熱を出すような装置が」
『熱……おぉ! あったぞっ、あった! 茶を保温するために使われていた、熱を発する魔導具が!!』
それだ!
「はい、ご苦労様です。道中、どうかお気をつけてお戻りください。これ、よかったら途中の食事の時にどうぞ」
僕の背後にヴァルゼさんがくっついてから一週間後、ここから一番近い町から王国兵の方たちがやって来た。
目的はゼザーク子爵かガルバンダス侯爵が雇い入れた、あの罪人たちを連行するためだ。
それにしても、すぐに父上へ手紙を出しはしたけど、ずいぶんと早かったな。
ここから実家まで徒歩で十日は掛かるのに。
手紙はチェリーチェさんが直接父上に届けたそうなんだけど……ほんと、チェリーチェさんってどrだけ足が速いんだろうか。
「結局、あいつらって不法に雇われていたってことなの?」
「詳しいことは調べてみないとわからないそうですが、基本的に、国で指定した労働場所以外で罪人を働かせることはないそうなので」
「ならやっぱり不法じゃな」
たぶんルキアナさんが言う通りだと思う。
報酬がーって彼らは言ってたけど、たぶん払う気なんかなかったんじゃないかな。
ふう。でもこれで肩の荷がひとつ減ったな。
坑道を直下掘りする準備もできたし、崩落しないように補強も済んだ。
これでようやく、本格的に掘削ができる。
「と思ったんだけど。もう冬支度をしなきゃいけないんだっけ」
「そうじゃ。この辺りの冬の訪れは早く、そして長いのじゃ。雪深くなる前に冬支度をしなきゃならないのよ」
「たとえばどんなことをするんですか?」
「んー、そうね。狩りをして燻製肉や干し肉をたくさん作っておくのじゃ。それから薪を大量に用意する。家屋の修繕も場合によっては必要じゃな」
食料と寒さ対策か。
『うむ。この辺りの雪は深いからな。しっかりと準備をせねば、餓死してしまうぞ』
「え、そんなに? どのくらい積もるんですか?」
『うぅむ……吾輩、冬は地下に籠っておったからなぁ。どうせ外に出てもまともに動けぬし』
冬の間ずっと引き籠り……。
「ルキアナさん」
「私がすっぽり埋まるぐらいには積もるのじゃ」
「ル、ルキアナさんがすっぽり!?」
ルキアナさんは僕の身長とそう変わらない。ほんの少し、彼女のほうが高いのかな。
そのルキアナさんがすっぽりなら、僕だってすっぽりじゃないか!
「そうなると、冬場は鉱山に行くのも……」
「無理なんじゃない?」
「え、そうなのですか?」
ひとりだけちょっと次元が違う人がいる。
フレドリクさんだけど。
『ここから坑道の入り口まで近いとはいえ、毎日雪かきをするのは大変であろう。人手も少ないようだしな』
そう、なんだよね。
町から少し南東に行くと、ドワーフ族の里がある。
そこで暮らすドワーフ族は百人ぐらいいて、実はロックレイでは人間よりドワーフ族の方が多い。
町で暮らす人の数は、鉱山で働く作業員が二十五名。それぞれが奥様と一緒に暮らしている。
二十六人の中にアレックスさんもいて、彼はご両親と一緒に暮らしている。もちろんお父様も作業員だ。
町には鉱山で働く人以外に、食堂を営んでいるご夫婦と雑貨屋を営むご夫婦がいる。
それからお医者様と看護師さんのご夫婦と、全部で五十五人しかいない。
ここにハンスさんとチェリーチェさん、そして僕たちを合わせても六十人だ。
一メートルを超える積雪……想像もできない。
前世の僕は関東に住んでいた。数年に一度、十センチ積もるかどうかの地域。
十センチ積もったら公共の交通は麻痺して、会社にいくのも大変だったな。
休ませてくれればよかったのに、這ってでも出てこいって……徒歩で四十五分以上かけて出勤して、帰りの電車もないから職場に泊まったり……。
あぁ、思い出しただけでも胃がキリキリする。
「どうしたの?」
「あ、ゆ、雪のことを考えていたんです。融雪装置とかあれがなぁって」
「ゆうせつそうち? なんじゃ、それは」
「え、えぇーっと」
うわぁ、咄嗟に口から出ちゃったけど、融雪装置なんて実際にはよく知らないんだよ。
どこでそんな言葉、聞いたんだろう?
うーん……うーん……あ、そうだ。
東北の方から上京してきたっていう同僚が言ってたんだっけ。
たしか――
「ど――道の脇に、地面から水を出す装置とか。水で雪を溶かすんです」
「へぇ」
「しかしデュカルト様、ここは山岳地帯ですので。水は低い土地へ流れていきますから、ヘタをすると町が水浸しになるのでは?」
「そ、そうか。うん、そうだね。えっと、それじゃあ……」
他に聞いた融雪装置だと、地面に電気を流してその熱で雪を溶かすってのもあったな。
「熱の力で雪を溶かすんです」
「熱の力? いったいどうやって?」
「えっと、それは……」
この世界に電気はないし。パイプを通して、温水を流すとか?
いや、その前にパイプの中のお湯が凍結しそうだ。
この世界ならではの何かがないかなぁ。
『熱? 熱なら魔法でどうにかなるのではないか?』
「あっ。そ、そうです。魔法です! 火の魔法で雪を溶かせばいいんですっ」
「しかし、魔法を扱える人が少ないんじゃない? まぁ私は使えるけど」
「そ、そうですね……。うぅん、何かないかなぁ」
何か装置が作れれば……装置、そう……あっ。
「ヴァルゼさん! 魔法王朝時代に何かありませんでしたか? 熱を出すような装置が」
『熱……おぉ! あったぞっ、あった! 茶を保温するために使われていた、熱を発する魔導具が!!』
それだ!