「あのぉ、魔女さん」
今は午後のおやつタイムで、レンチンしたドーナツを魔女さんと食べている。
お披露目会から二日、ここで僕は、ずっと気になっていたことを口にした。
ちなみに陛下から頂いたお酒は、あの日のうちになくなったのは言うまでもない。
「なんじゃ?」
「えっと……魔女さんって、なんてお名前なんですか?」
「え……」
ここでしばらく、静寂が訪れる。
ずーっと魔女さんって呼ぶのもなんだか変だし、でも町の人もみんな、魔女さんとか、魔女のお嬢ちゃんだとか呼んでるんだよね。
きっと誰も名前を知らないのかもしれない。
「え? あれ? 名乗って、なかった?」
「聞いてません」
「あ、そうじゃったか。えっと、ルキアナじゃよ」
「ルキアナさん……うん、覚えました。あとお一つ」
「なんじゃ、まだあるの?」
これも大事なことだ。
僕は魔女さんの――
「ルキアナさんの顔を見たことがありません!」
「え……」
ここでまた、静寂が訪れる。
もしかすると彼女は素顔を晒したくないのかもしれない。
ドワーフ族の方が来た時、ルキアナさんを見て「ハーフエルフの魔女」と言っていた。
ハーフエルフ。エルフ族と人間族の混血児で、異世界ものあるあるの、異種族間結婚はこの世界でもあまりよく思われていない。
同時に混血児を忌み嫌う風習もある。
だから顔を見せたくない、のかもしれない。
見せたくないのなら、無理に見せて欲しいとは思わない。
「えっと、やっぱりいいです。気にしないでください。見られたくないことだって、ありますよね」
「え、えっと……別に見られて嫌というわけではない。その……」
「え、違うんですか?」
ルキアナさんはこくりと頷き、そしてこう言った。
「フ、フードを被ってる方が、魔女っぽいから……じゃ」
――と。
え、それだけ?
っぽいか、っぽくないかの判断!?
それからルキアナさんは、ゆっくりとフードを外した。
あ、確かに耳が少し長くて尖ってる。ハーフエルフってのは本当だったんだ。
淡い菫色のサラサラとした髪に、澄んだ青空色の瞳……うわぁ、魔女さん凄く綺麗な子だ。
二十歳ぐらいなのかなって思ったけど、十七、八歳ぐらいかな?
いや、ハーフエルフなら実際の年齢はわからないけど、外見はそんなもんだ。
「魔女っぽいかどうかなんて、そんなの関係ないですよ! せっかくお綺麗なのに」
「き、綺麗!? あ、あんたねぇ……さすが貴族のお坊ちゃんじゃ。子供だというのに、口説き文句をよく知っておる」
「く、口説くなんて!? 僕は正直な感想を口にしただけです」
「だったらなおさらじゃ。せいぜい十歳でしょ? 無意識に口説き文句が言えるなら、将来は女泣かせになるのぉ」
……十二歳。
「僕は十二です!」
「え? ……嘘」
「嘘じゃありません。十二歳です!」
「あ、はは。そうかそうか。ま、まぁ十も十二もそう変わらないって」
小学校四年生と六年生の近いは、結構あるんだよ!
それに、前世の僕が過労で死んだのは三十歳の時だ。
だから中身は大人なんだ!
子供扱いされるのは、嫌ってんじゃなくって恥ずかしいんだよ!
でも、最近思うことがある。
僕、絶対肉体に精神年齢が引っ張られてるよなぁって。
「はぁ、おいしかった。ごちそうさまじゃ」
「どういたしまして。明日は何をレンチンしようかなぁ」
「晩御飯も楽しみにしておるからの……っと、このままあんたが料理担当に?」
「えっと、そのつもりですが」
「ふぅん。まぁ私はどっちでもよいが、でも貴族のお坊ちゃんが使用人のご飯まで作るって変わっておるの」
「他に人がいませんから」
ハンスさんが父上に、信用できる使用人を数人送って欲しいって内容の手紙は送ったみたいだ。
でも手紙が届くのに十日はかかる。
すぐに人を送ったとしても、さらに十日だ。
侯爵家にいる人をってなると仕事の引継ぎやらで時間がかかるし、新しく人を雇うならもっと時間がかかる。
まぁ一カ月待ちかな。
「そっか。あ、お掃除ぐらいなら手伝うぞ」
「ブライニーさんがですか!」
「そ、そうじゃが……言っとくけど、召喚してるのは私なんじゃぞ!」
「はい! きっとハンスさんも喜びます」
毎日掃除をしていたようだし、いつも大変だろうなって思ってたんだ。
さっそくハンスさんに――ん?
慌てたような足音は、廊下から聞こえてくる。
その足音はこっちに近づいて来てて、やがて――
「大変だ坊ちゃん!」
「組合長さん。どうなさったんですか?」
「た、たい……はぁ、大変だぜっ」
「とりあえずお茶をどうぞ」
すぐさま棚から新しいティーカップを取り出し、紅茶を注いで組合長さんに差し出す。
それを鷲掴みして一気飲みすると、組合長さんは深呼吸してから僕を見た。
「デタんだよ」
「出た?」
「あぁ、そうだ!」
「ちょっとちょっと、出たって何が……あっ、魔導石の鉱脈!?」
とルキアナさんが言うと、組合長は首を左右に振った。
「ばっか、デタつったら決まってんだよ。ゴーストだよ、ゴースト!」
「「え?」」
つまり、幽霊?
今は午後のおやつタイムで、レンチンしたドーナツを魔女さんと食べている。
お披露目会から二日、ここで僕は、ずっと気になっていたことを口にした。
ちなみに陛下から頂いたお酒は、あの日のうちになくなったのは言うまでもない。
「なんじゃ?」
「えっと……魔女さんって、なんてお名前なんですか?」
「え……」
ここでしばらく、静寂が訪れる。
ずーっと魔女さんって呼ぶのもなんだか変だし、でも町の人もみんな、魔女さんとか、魔女のお嬢ちゃんだとか呼んでるんだよね。
きっと誰も名前を知らないのかもしれない。
「え? あれ? 名乗って、なかった?」
「聞いてません」
「あ、そうじゃったか。えっと、ルキアナじゃよ」
「ルキアナさん……うん、覚えました。あとお一つ」
「なんじゃ、まだあるの?」
これも大事なことだ。
僕は魔女さんの――
「ルキアナさんの顔を見たことがありません!」
「え……」
ここでまた、静寂が訪れる。
もしかすると彼女は素顔を晒したくないのかもしれない。
ドワーフ族の方が来た時、ルキアナさんを見て「ハーフエルフの魔女」と言っていた。
ハーフエルフ。エルフ族と人間族の混血児で、異世界ものあるあるの、異種族間結婚はこの世界でもあまりよく思われていない。
同時に混血児を忌み嫌う風習もある。
だから顔を見せたくない、のかもしれない。
見せたくないのなら、無理に見せて欲しいとは思わない。
「えっと、やっぱりいいです。気にしないでください。見られたくないことだって、ありますよね」
「え、えっと……別に見られて嫌というわけではない。その……」
「え、違うんですか?」
ルキアナさんはこくりと頷き、そしてこう言った。
「フ、フードを被ってる方が、魔女っぽいから……じゃ」
――と。
え、それだけ?
っぽいか、っぽくないかの判断!?
それからルキアナさんは、ゆっくりとフードを外した。
あ、確かに耳が少し長くて尖ってる。ハーフエルフってのは本当だったんだ。
淡い菫色のサラサラとした髪に、澄んだ青空色の瞳……うわぁ、魔女さん凄く綺麗な子だ。
二十歳ぐらいなのかなって思ったけど、十七、八歳ぐらいかな?
いや、ハーフエルフなら実際の年齢はわからないけど、外見はそんなもんだ。
「魔女っぽいかどうかなんて、そんなの関係ないですよ! せっかくお綺麗なのに」
「き、綺麗!? あ、あんたねぇ……さすが貴族のお坊ちゃんじゃ。子供だというのに、口説き文句をよく知っておる」
「く、口説くなんて!? 僕は正直な感想を口にしただけです」
「だったらなおさらじゃ。せいぜい十歳でしょ? 無意識に口説き文句が言えるなら、将来は女泣かせになるのぉ」
……十二歳。
「僕は十二です!」
「え? ……嘘」
「嘘じゃありません。十二歳です!」
「あ、はは。そうかそうか。ま、まぁ十も十二もそう変わらないって」
小学校四年生と六年生の近いは、結構あるんだよ!
それに、前世の僕が過労で死んだのは三十歳の時だ。
だから中身は大人なんだ!
子供扱いされるのは、嫌ってんじゃなくって恥ずかしいんだよ!
でも、最近思うことがある。
僕、絶対肉体に精神年齢が引っ張られてるよなぁって。
「はぁ、おいしかった。ごちそうさまじゃ」
「どういたしまして。明日は何をレンチンしようかなぁ」
「晩御飯も楽しみにしておるからの……っと、このままあんたが料理担当に?」
「えっと、そのつもりですが」
「ふぅん。まぁ私はどっちでもよいが、でも貴族のお坊ちゃんが使用人のご飯まで作るって変わっておるの」
「他に人がいませんから」
ハンスさんが父上に、信用できる使用人を数人送って欲しいって内容の手紙は送ったみたいだ。
でも手紙が届くのに十日はかかる。
すぐに人を送ったとしても、さらに十日だ。
侯爵家にいる人をってなると仕事の引継ぎやらで時間がかかるし、新しく人を雇うならもっと時間がかかる。
まぁ一カ月待ちかな。
「そっか。あ、お掃除ぐらいなら手伝うぞ」
「ブライニーさんがですか!」
「そ、そうじゃが……言っとくけど、召喚してるのは私なんじゃぞ!」
「はい! きっとハンスさんも喜びます」
毎日掃除をしていたようだし、いつも大変だろうなって思ってたんだ。
さっそくハンスさんに――ん?
慌てたような足音は、廊下から聞こえてくる。
その足音はこっちに近づいて来てて、やがて――
「大変だ坊ちゃん!」
「組合長さん。どうなさったんですか?」
「た、たい……はぁ、大変だぜっ」
「とりあえずお茶をどうぞ」
すぐさま棚から新しいティーカップを取り出し、紅茶を注いで組合長さんに差し出す。
それを鷲掴みして一気飲みすると、組合長さんは深呼吸してから僕を見た。
「デタんだよ」
「出た?」
「あぁ、そうだ!」
「ちょっとちょっと、出たって何が……あっ、魔導石の鉱脈!?」
とルキアナさんが言うと、組合長は首を左右に振った。
「ばっか、デタつったら決まってんだよ。ゴーストだよ、ゴースト!」
「「え?」」
つまり、幽霊?