「じゃあ、みなさんはガルバンダス侯爵によって解放された罪人さんなのですね?」
「「ひょーれす」」

 鉱山内に急遽作られた牢獄は、行き止まりの坑道を利用したもの。
 その坑道は先日、ガスが出た場所から近い。
 今はもうガスは出ていないけれど、それでも彼らにとっては戦々恐々とする場所だろう。
 それに、昨日あんだけフレドリクさんからボコボコにされたから、めちゃくちゃ怯えている。
 僕の隣にフレドリクさんがいるからね。いつもの無表情で。

「鉱山でいったい何を掘っていたんですか?」
「えっと、それがその……とにかくなんか見つけたら知らせろって、ゼザークの野郎からはそれしか言われてなくって」
「珍しいもん見つけたらとか、そんな感じ――ひっ。ほ、本当です! 具体的なことはなんにも言ってくれねぇんですよ、あの野郎は」

 フレドリクさんが少し睨むと、みんなすぐ怯えてしまう。
 牢獄には二十四人の罪人がいる。
 この二十四人をぜーんぶ、フレドリクさんが一瞬で片付けてしまったのだから、怯えても仕方ないか。

 それに、嘘を言っているようには見えない。
 嘘を吐く利点が、彼らにはないのだから。

 他にも理由はある。
 こうなったときに、情報が漏れるのを恐れてガルバンダス侯爵なりゼザーク子爵なりが詳細を教えなかったのだろう。
 もしかするとゼザーク子爵も知らなかったかもしれない。

 となると。

「一年ほど鉱山で働いていたようですが、何か見つけましたか?」

 そう尋ねると、ロープで縛られた腕を上げる人が何人かいた。

「オ、オレぁ白っぽい石を見つけたッス」

 白っぽい?

「そりゃ銀だ。ここじゃ珍しくもねぇ。今だって小さぇ銀鉱石は出るんだよ」

 と、一緒に来ていたドワーフ族のドズルさんが教えてくれる。

「赤い石を掘ったぜ! ありゃルビーだ。そうだろ?」
「あぁ、ルビーだったな」
「ひゃっほー!」
「俺は金を見つけたぜっ」

 ドズルさんが頷く。そしてぼそりと「珍しくねぇんだよ」と呟いた。

 つまり、昔からここで採掘している人にとって珍しくないものでも、鉱山で働いたことのないこの人たちにとっては珍しいものだ……と。
 金銀宝石を掘り当てたら、そりゃ素人は興奮するよね。

「聞いた話じゃ、この前の崩落事故もこいつらのせいみたいだな」
「え、そうなんですか?」

 僕がそう言うと、みんなの顔が青ざめた。

「坑道の一部では発破を禁止してんだ。崩れやすい部分があるからな。こいつらはそこで発破を使いやがった」
「なんでそんなことを」
「ん、んなことゼザークの野郎は一言も言わなかったんですよっ。おかげで二人死人が出てんだ」
「死人!? なんでそれを言わなかったんですかっ」
「な、なんでって……別に仲間でもなんでもねぇし、死人が出ればその分、俺らの取り分も増えるからよ……。そ、そうだっ。ゼザークの野郎が獲っ捕まったって話だが、俺たちへの報酬はどうなるんだ!?」

 仲間じゃないから死んでもいいなんて……。

「もしかして昨日、屋敷に来たのは報酬の件ですか?」
「そ、そうだ。俺たちは正当な報酬を得る権利がある。ゼザークがいろいろちょろまかしていたのも知ってる。その金を受け取る権利が、俺たちには――」
「ありません。そもそもあなた方は、ハーセラン家の正規雇用者ではありません。雇用主が子爵なのかガルバンダス侯爵なのかは知りませんが、報酬はそちらに求めてください。それ以前にみなさんは、ちゃんとした手続きの上に罪を免除された方々なのですか?」
「うっ……そ、それは……」

 やっぱりだ。
 彼らの腕に掘られた入れ墨は「終身刑」を意味する青紺色だ。
 つまり死ぬまで強制労働をさせられるという意味。

 聞けば彼らは一年前に刑が確定し、どこかの鉱山で強制労働に就く――予定だったそうだ。
 だけどロックレイは普通の鉱山で、罪人を働かせる場所ではない。
 ここに終身刑の罪人がいることがおかしいし、刑期中の罪人に給料は支払われない。

「け、けど、奴は言ったんだ! ここであの方が求める物を見つければ、この入れ墨を消してやるって。金もたんまりくれるってよ!」
「ですから、僕はその『奴』でも『あの方』でもありませんし、ハーセラン家ももちろん違います。むしろあなた方は、国の法を犯して罪を免れようとしているんですよ。罪に罪を重ねているだけです」
「そ、そんな……」

 なんでそこで悲しむかな。僕は当たり前のことを言っただけなのに。

 あぁ、魔導転送装置がまだ使えていればなぁ。
 急いでこの件を父上にお知らせしないと。
 それまではここで大人しくしてもらうしかないなぁ。